アジアカップ決勝弾丸観戦記BACK NUMBER
第2回:スタジアムで目にした光景。
text by
川端裕人Hiroto Kawabata
photograph byHiroto Kawabata
posted2004/08/09 12:08
イランとバーレーンによるアジアカップ3位決定戦の観戦へ。今回の大会、これまでの試合で強く印象づけられたのは、アジアにおける実力の拮抗の「きざし」だ。その文脈で、中東の伝統国と新興国のせめぎ合いは、「アジア戦国時代」を予感させてくれるのではないかと期待してゲートをくぐった。とにかく、おもしろいサッカーは、実力が伯仲したライバルたちの存在ではじめて成り立つものだから。
ところが、自分の座席ブロックに足を踏み入れた瞬間、別のことに注意が奪われてしまった。もちろん、試合を観つつ「戦国時代」について感じたり考えたことはたくさんあるのだけれど、それ以前のもっと切実な目の前の問題。
何かというと――スタジアムが、とにかく「汚い」のだ。試合前からかなりひどい状態になっていたものが、試合中さらに汚れていく。中国人観戦者がもらったチラシを使って紙飛行機をと飛ばし、紙吹雪を舞わせ、時にはゴミを投げ捨て、さらには飲み残したコーラを、無造作に通路や座席下に流したりするものだからたまらない。さらに、応援も試合中にいきなりブラスバンドが中国国歌を演奏し始め、時ならぬ手拍子が始まったり、もうびっくりし通しだった。これって観戦文化が未成熟とか、そういう話ではなくて、むしろ文化が違うのだと割り切った方がよさそうだとまで感じた。たまたま近くにいた日本人の現地駐在員の方に聞いたら、だいたいいつもこんなもんである、ということだったし。
そこで導かれる結論はというと……もしも決勝戦、一階席、ゴール裏近辺に集められた日本サポーターの上にゴミが降ってきたとしても、ここでは当たり前なのだからして、こっちも実害がない範囲ならむっとする必要もないのではないか。もちろん、対日本戦だと紙飛行機にゴミが混じる率が高くなる、といったくらいのことはありそうだけれど、それとでも彼らにとっては普段の悪意のない習慣の延長にすぎない。昨日、地元サッカーファンのヤンさんが、「ちょっとふざけてやっているだけ」と言った意味がやっと分かった気がする。
それにしても、本当に衝撃的だった。と同時に、日本とは関係ない試合を事前に観ておいて本当によかった。あれを全部「悪意」と捉えていたら、身が持たない。
閑話休題。
「アジア戦国時代」のきざしのことだけれど、このマッチからはちょっとしか感じられなかった、というのが正直なところ。モチベーションの落ちた2チームは、旧来の単純カウンターサッカーに戻ってしまったような印象で、これらなら日本代表もあんなに苦しまなかったんじゃないだろうか。点取り合戦になった結果から見れば中東新旧勢力が拮抗したエキサイティングな勝負を繰り広げたともいえるわけだから、ここに「きざし」を見るべきなのだろうけれど。
まあ、今回の大会では、中東の新たな展開のほかにも、いろいろな明るい要素があった。ひとつは、中央アジアの復興。そして東南アジアの勃興。みんな敗れはしても「大会のアウトサイダー」ではない、立派なサッカーをした。きっと十年後から振り返ってみるなら、あのころからアジアのサッカーは変わってきたのだと感じられるに違いない。
その中で中国代表にはどこかで目覚めていただいて「覚醒した竜」になってもらわなきゃ困るのだけれど、この際、一緒に例の「文化」やめません? って気分はある。とりあえず異文化として認めはしても、この先、中国で試合を観るたびにゴミが降ってくるなんて、閉口させられることには違いないから。