MLB Column from USABACK NUMBER
「もし、ボンズがステロイドを使っていなかったら」
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2004/12/20 00:00
以前から筋肉増強剤の使用を噂されていたバリー・ボンズが、昨年、栄養サプルメント会社「バルコ」の非合法筋肉増強薬供与疑惑を調査した大陪審に証人喚問された際、「ステロイドを使った」と証言していたことが明るみに出た。「ステロイドとは知らなかった」とボンズは故意の使用を否定したというが、自分が食べる食品のカロリーやコレステロール含有量をそらで言えるほど肉体管理には神経質なことで知られるボンズが、中身を知らずに薬を使用したなどとは考えにくく、ファンの8割以上は「ボンズは嘘をついている」と考えている。
ボンズは、ここまで通算703本塁打、ベーブ・ルース(714本)、ハンク・アーロン(755本)の記録を射程に入れている。しかし、大リーグの歴史の中でも一番価値が 以前から筋肉増強剤の使用を噂されていたバリー・ボンズが、昨年、栄養サプルメント会社「バルコ」の非合法筋肉増強薬供与疑惑を調査した大陪審に証人喚問された際、「ステロイドを使った」と証言していたことが明るみに出た。「ステロイドとは知らなかった」とボンズは故意の使用を否定したというが、自分が食べる食品のカロリーやコレステロール含有量をそらで言えるほど肉体管理には神経質なことで知られるボンズが、中身を知らずに薬を使用したなどとは考えにくく、ファンの8割以上は「ボンズは嘘をついている」と考えている。
ボンズは、ここまで通算703本塁打、ベーブ・ルース(714本)、ハンク・アーロン(755本)の記録を射程に入れている。しかし、大リーグの歴史の中でも一番価値が高いとされているルース、アーロンの記録を、ボンズが非合法薬剤の助けを借りて破ることに嫌悪感を抱くファンは多い。
では、ボンズがステロイドを使っていなかったら、いま、どれくらいの記録になっていたのだろうか? そんな疑問に答えたのが、セイバーメトリクス(野球を数理統計学的に解析しようとする「学問」)に明るいベースボール・ライター、アラン・シュワルツだ(シュワルツは、今年、そのものズバリ『ザ・ナンバース・ゲーム』と題する本を著し、野球にまつわる統計学的解析の歴史を概観した)。
セイバーメトリクスの手法の一つに、選手の過去の実績に基づいて将来の成績を予測する方法があるのだが、シュワルツは、1999年までのボンズの実績を基に、2000年以降の成績を、シーズン毎に「予測」したのである。計算の基礎になったのは、年を取るとともにどれだけ力が衰えるかについての、過去の大リーグ全選手のデータである。シュワルツによると、ボンズが「薬の力を借りずに年齢相応に力が衰えていった」と仮定した場合の各シーズンの「予測」本塁打数と実際の本塁打数(括弧内)は、
2000年30本(49本)、01年25本(73本)、02年24本(46本)、03年19本(45本)、04年18本(45本)
となるという。通算本塁打は703本ではなく、561本だったという計算結果で、アーロンの記録はおろか、ルースの記録すら破る可能性はまったくなかった勘定になるのである。
薬まみれのボンズが記録を破ることに対するファンの嫌悪感が強いこともあって、MLBは、薬剤の検査・違反者の処分を強化する方向で動いているが、それにしても、何も対策を講じようとしない日本のプロ野球は大丈夫だろうか?
アメリカにいる私にも色々な噂が耳に入ってくるのだが、「体格・パワーが突然変化」した選手でも、「最近子どもができた」選手は少なくともステロイドは使っていないと思ってよい(ステロイドを大量に使うと精巣が萎縮し不妊となるからだが、成長ホルモンを使っているとなると話は別だ)。しかし、噂に上った選手が「オリンピック・チームに入りたくない」などと広言した話を聞くと、「薬剤の検査をされることを嫌がったのではないか」と疑わざるを得ない。