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格闘超人伝説。 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph bySusumu Nagao

posted2008/09/12 00:00

格闘超人伝説。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

 9月初旬、アメリカの老舗格闘技団体UFCから、同団体のヘビー級王者であるランディ・クートゥアの1年3ヶ月ぶりの復帰が発表された。11月15日にラスベガスで開催される『UFC.91』でタイトルを賭け元プロレスラーでWWEヘビー級王者だったブロック・レスナーと対戦する。

 この話を聞いたとき、「よくやるよ」と「やっぱりね」の相反する感情が沸き上がってきた。それと同時に、やっぱこの人は、常人のモノサシでは測ることのできない超人なのだなあとしみじみ感じたのだ。

 現役トップクラスのファイターであるクートゥアについてまず話題になるのが、その年齢だ。すでに45歳。“アラフォー”ならぬ“アラフィー”で、肉体的にも精神的にも消耗の激しい総合格闘技を戦っているのだから恐れ入る。しかも全米トッププロモーションのヘビー級チャンピオン。“キャプテン・アメリカ”と呼ばれ親しまれるのも理解できるというものだ。そして、いかにも男性ホルモン全開なセクシーな雰囲気で女性にも人気がある。

 余談だが、欧米では妙齢で頭髪が薄い男性はセクシーだという認識が日本以上にあるようだ。ブルース・ウィリスしかり、ショーン・コネリー、ニコラス・ケイジ……。うーん、何故かうらやましい限りである。ま、そんなことは置いておいて……閑話休題。

 現代医学の進歩とトレーニング法、何よりも本人の摂生がクートゥアの長い現役生活を可能にしているわけだが、そもそもクートゥアは総合格闘家としてのスタートが遅かった。

 学生時代から30歳まではオリンピック候補に選ばれるレスリング・エリートとして過ごし、総合格闘家として頭角を現したのは33歳のとき。以来、トップシーンを駆け抜けているわけだが、選手としてのピークは3〜5年と言われている総合格闘技において、これほど長く高いレベルで戦っていられるのは、年齢を加味しなくても、もはや超人といっても過言ではないだろう。

 そして先ほど「やっぱりね」と思った理由だが、それはクートゥアの復帰が予測できたからだ。クートゥアは実際に1度引退し、また年齢から次の試合はないだろうといわれながら何度も復活している。だから今回のカムバックに関しては、さほど驚きは感じなかったというわけだ。

 ただ今回のケースは、なにやらキナ臭い思惑が動いているようでならない。

 というのも、クートゥアは昨年の10月に、UFCからの離脱とヘビー級王座の返上を表明した。理由はファイトマネーの不満と、あのエメリヤーエンコ・ヒョードルとのマッチメイクが実現しないからというものだった。以来、浪人生活が始まったわけだが、このクートゥアの去就をめぐり、UFCを運営するズッファと契約不履行による裁判へと発展した。その法廷での争いが進展したのは7月、報道によればテキサス州の最高裁判所でクートゥアの敗訴が言い渡されたという。

 果たしてこれが復帰への直接的な原因になったとは思えないが、何かしらメリットがあったからこそクートゥアは動いたのだろう。そこには何があるのか……?

 現在、そのクートゥアが対戦を熱望していたヒョードルは、7月に旗揚げした新興団体『アフリクション』に参戦しているが、同団体は当初11月に予定していた2回目の大会が来年1月に延期するという不安定さを露呈している。また最近ではズッファの社長であるダナ・ホワイトが、一時は発言を避けていたヒョードルについて色々と語り始めているのも気になるところ。

 ひょっとしたらクートゥア×ヒョードルというゴールデンカードがUFCの舞台で実現する可能性も……。UFCヘビー級暫定王者のアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラも含め、波乱含みの展開が予想できる今後のUFCヘビー級戦線。10月からWOWOWでの放送も再開されるだけに日本のファンにとっては楽しみが増すばかり。

 “アラフィー”クートゥアを中心に、ぜひ注目してもらいたいものだ。

ランディ・クートゥア
エメリヤーエンコ・ヒョードル

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