ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER
2006年 VSマルタ
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byKiminori Sawada
posted2006/06/06 00:00
「これが起こったのが今日でよかった」。
6月4日、ドイツ・デュッセルドルフで行ったワールドカップ(W杯)開幕前最後となる調整試合で、マルタに1−0で勝ったものの、締まらない内容の試合を終えて、日本代表ジーコ監督はこう振り返った。
足を痛めた高原・柳沢の2トップに代えて先発起用した玉田が、立ち上がり2分で三都主の左からのクロスにニアポストで合わせて先制。幸先のいいスタートを切って、その後は、攻撃の形やプレスのかけ方、ラインキープの高さなど、本番を控えて確認事項をチェックする展開になるかと思われた。
だが、そうはならなかった。
早々の先制点が気の緩みをもたらしたのか、ノンストップの疲れが出たのか。それとも、ドイツ戦の精神的リバウンドか。ミスが多く、チーム全体にどこか緊張感に欠けた展開になってしまった。
FIFAランク125位とはいえ、昨年9月のW杯欧州予選ではクロアチアと1−1で引き分けたマルタに対して、ボールはキープし、ほとんど敵陣でのプレーが続く。三都主のパスからFW大黒がポストを叩いたり、MF中田英寿の折り返しにMF駒野が攻め上がってシュートを打ったり、玉田―大黒とつないでハーフチャンスを作ったりしたが、数日前のドイツ戦で見せたような、チーム全体がかっちりと歯車が噛み合ったような切れはない。
逆に、前半終了間際には「試したい」と試合前に話していたカウンター攻撃を相手にしかけられて、日本ゴールが脅かされた。GK川口のセービングとクロスバーのおかげで事なきを得たが。
後半からDF坪井に代えてMF小野を起用して4バックにし、その後三都主に代えてDF中田浩二、玉田に代えてMF小笠原、福西に代えてMF稲本、さらに大黒に代えてFW巻を投入して4−5−1のフォーメーションを試したが、守備を固める相手に対して攻めあぐね、シュートまで行けずに終わる場面も少なくなかった。試したいことも十分に試せず、90分が終わってしまったように見えた。
「2〜3人がいいだけのチームで終わりたいのか!」
試合後にジーコ監督はチームにそう言って、檄を飛ばしたという。
ここまで気の抜けた内容になるとは、さすがの指揮官も思っていなかったということだろう。
「どんな相手とやっても真剣にやる。そこでプロの値打ちが決まるもの。こういうことをやっているようではだめだと、肝に銘じてやる必要がある」とジーコ監督は話した。そして、「今のところ、まだ差がある」と続けた。
どんなときでも動じないのが一流選手であると、元ブラジル代表アイドル選手のジーコは言いたかったに違いない。それに、4年の年月をかけて取り組み、さらに1週間後にせまる本番へ向けて期待してきたことは、選手レベルの底上げではなかったか。
中田英寿のように、どんな試合でも手を抜かずに取り組み、結果を出そうとする選手と、相手が格下と見ると、手を抜いて自滅する選手。このばらつきをなくさなければ、W杯で強豪各国と伍して戦うことはできない。この試合から得たメッセージ、ジーコ監督の怒りと嘆きが選手の心に残ることを期待するしかない。
5月17日にJヴィレッジでスタートしてここまでノンストップで続いてきていたが、チームは試合後に一度解散し、5日の夜までオフになった。ここで一度息を抜いてリフレッシュするためだ。6日に練習が再び始まると、そこからは12日のオーストラリア戦に照準を合わせた準備になる。
「まだ6日ある。いい準備をしたい」。
そう言ったジーコ監督の声に揺るぎはなかった。