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松坂大輔と3年目の壁
――故障者リスト入りをどう見るか?
 

text by

芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byJim Rogash/Getty Images Sport

posted2009/05/07 08:00

松坂大輔と3年目の壁――故障者リスト入りをどう見るか?<Number Web> photograph by Jim Rogash/Getty Images Sport

 松坂大輔は大丈夫だろうか。2009年開幕直後、ほんの少し投げただけで故障者リストに入った彼を見て、方々から危惧の声があがった。WBCでの急仕上げが懸念されただけではない。もうひとつ投げかけられた大きな疑問があった――この躓きは、日本人投手がほぼ全員ぶつかる「3年目の壁」ではないのか。

 デビュー直後は鮮烈だが、3年目から苦しみはじめ、4年目に成績が急降下する――野茂英雄も伊良部秀輝も石井一久も、判で押したようにこの轍を踏んだ。とくに、防御率の劣化は顕著だ。野茂は、最初の2年間で2.90だった通算防御率が3年目には4.25になった。石井の場合は、4.07から4.71へ。伊良部の場合は……いや、もうやめておこう。

松坂はまだ能力を開花させていない

 では、松坂はどんなコースを歩むのか。1年目の彼は、204回3分の2を投げて15勝12敗、4.40の防御率を残した。2年目は、167回3分の2、18勝3敗、2.90。私の印象でいうと、1年目は期待はずれで、2年目は幸運に助けられつつ変貌の方途を探った感が強い。いいかえれば、松坂大輔はまだまだ能力を開花させていない。

 にもかかわらず、彼の3年目を不安視するアメリカのメディアは少なくない。論拠の大半は、「日本人投手の大リーグでの傾向」と松坂が高校時代から「投げすぎてきた」事実だ。なるほど、松坂は甲子園で1試合に250球を投げたことがある。西武ライオンズに入ってからも、150球や160球を投げるケースはしばしばあった。そんな疲労の蓄積が肩や肘に……というのが松坂早期限界説の根拠になっているのだが、私はあえて異を唱えたい。

 最大の理由は、松坂が「快刀乱麻型」から「タフガイ型」へと変貌しつつあることだ。つまり、打者を力でねじ伏せるのではなく、ある程度打たれながらも大崩れせず、最後は寝技に持ち込んで勝利を呼び込むという粘りのパターン。

 この延長線上には、面白いタイプの投手がいる。アメリカでいうなら、ドン・サットンやバート・ブライレーヴェン。日本の球史に残る投手でいうなら、米田哲也や小山正明。彼らに共通するのは、漂えど沈まぬ長命だ。サンディ・コーファックスや稲尾和久のような超絶的ピークこそ迎えなかったものの、彼らは非常に息の長い投手生活を送った。俳句を例に引いて言い換えるなら、「絶頂の城たのもしき若葉かな」(与謝蕪村)を取るか、「冬の波冬の波止場に来て返す」(加藤郁乎)を取るか。

日本人メジャー投手のジンクスを超える

 過去2年間の流れを見ると、松坂はあきらかに後者に傾いている。物足りないと感じる人はいるかもしれないが、私はむしろこの変貌に好感を抱いている。なるほど、10代の投げすぎは事実かもしれないが、松坂ならばそれをカバーできる投手人生を送ることができるはずだ。1年目と2年目に能力を爆発させなかった分、3年目の彼にはまだ成熟の余地が残っていると見るほうが楽しいではないか。しばらく不調に苦しんだ野茂が6年目に復活した日のことを鮮明に覚えている私としては、松坂早期限界説には同意する気になれない。そもそも、歴史とは教訓にこそなれ、法則にはならないものだったはずだ。

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