カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:東京「高校サッカーで一目惚れ」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2005/01/17 00:00
年始のスポーツ番組はいつもマンネリ。
感動の押し売りにうんざりしてしまう。
でも、そんな僕の心を掴む存在が現れた。
リモコンのスイッチをオンにすれば、常時、どこかの局で国内モノの大一番が放送されている。年始はスポーツ好きのヒマ人には、充実したひとときである。
一心不乱に、画面の中に入り込むことができればしめたもの。スポーツの清々しい魅力に素直に感動できる。僕も小さな頃はそうだった。高校サッカーを見れば、よし僕も……と、表へと直ちにボールを蹴りに飛び出していったものだ。しかし、何十年も同じ視線を傾け続けることは難しい。
どれもたいそうな歴史に支えられた伝統的な恒例行事だ。悪く言えばマンネリ。代わり映えがしない。もっと悪く言えば、時代遅れ。視点を変えれば、そうした負の要素も見えてくる。特に苦しいのが高校サッカーだ。
サッカーファンは、どうしたら日本は強くなれるかを、常に頭の片隅に命題として抱えている。W杯2次予選が迫ったこの時期は、なおさらだ。Jリーグはもちろん、世界だって見ることができる。サッカーを取り巻く全体像が見えてしまっている状態の中で、高校サッカーだけにしか関心が抱けないファンは珍しい。視点は平気で変えられる。
アナウンサーが、特定の選手を「超高校級」といくら煽っても、それが誇張かどうか判断できる目がある。「U-17代表選手」「Jリーグ入りが内定している選手」と肩書きを連呼しても、むやみに「へー」とは感心しない。U-17に選ばれても、Jリーグ入りしても、陽の目を浴びずに消えていく選手が数多いことを知っている。近い将来、日本代表で行けそうな素材なのか。騒がれれば騒がれるほど現実的になる。
感動の押し売りにも辟易している。日本がW杯に出場を果たしても、ベスト16に進んでも、そんな時代背景に構うことなく、実況は10年一日のごとくのマイペースぶりだ。どこからあのハイテンションが来るのか不思議でならない。
挙げ句の果てには中継切れだ。準決勝第2戦、市船対星陵は、星陵が終了寸前に同点に追いつき、PK戦に突入した。4人が蹴って3-3。さあ5人目は--その瞬間、画面には突然、田中達也が現れた。アクエリアスのCMに切り替わってしまったのだ。ふざけるな! 近くのコンビニのおじさんは、凄い剣幕で怒っていた。さらに、さんざんCMを流した後に始まった高校サッカー情報番組が酷かった。真っ先にPK戦の結果を伝えるのが筋なのに、さんざん番組を引っ張った挙げ句、15分ぐらい経った頃に「ただいま速報が入りました」とアナ氏。嘘をつくのは止めましょう。
怒りは、この準決勝戦が内容的にも優れていたからこそ膨らむ。試合展開は文句なしだった上に、星陵のサッカーが僕のお気に入りゾーンに属していたこと、そして何を隠そう、星陵1番、本田圭佑クンに、一目惚れしてしまったことにある。
左利き。ドリブルも巧ければ、シュートも巧い。視野も広いし、パスセンスもある。プレーに気品があるし、背筋がピンと伸びたスタイルも良い。目線も高そうだ。
彼が、名古屋グランパスに入団するという話を聞いて、脳裏には瞬間、ある人物像がパッと浮かんだ。その昔、四中工のリーダーとして、決勝に進んだ小倉隆史だ。瓜二つ。生き写し。発するムードが彼とそっくりなのだ。で、顔の作りは小倉より上。イケメンだ。「U-20代表」。アナ氏が連呼する肩書きも、この場合は耳障りではなかった。
グランパスに入った小倉は、直後オランダに留学し、エクセルシオールで大活躍。オランダリーグで1,2部を通した20歳以下のベストイレブンにもたびたび選ばれた。しかし、日本に戻らず、こちらでプレーを続けろとの周囲の説得も空しく小倉は帰国。「アトランタ五輪に出るためには、その方が良い」。その時、彼は僕にそう言った。そして、U-23のマレーシア合宿で、取り返しの着かない怪我を負う。膝の骨が木っ端微塵に砕け散る重症で、その後、とんでもない苦労を背負い込むことになった。
僕が代理人なら今頃、本田圭佑選手を、即刻、欧州に連れ去っているだろう。ファンペルシより良いんじゃないとは率直な感想。早速、ベンゲルにお見せしたい逸材だ。海外は、Jリーグで活躍して、日本代表になってから……では、遅きに失する。急ぎたい。