スポーツの正しい見方BACK NUMBER
守備妨害なのか、頭脳プレーなのか。
text by
海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa
posted2003/09/11 00:00
九月六日のタイガース対ベイスターズ戦の四回表、ベイスターズの一塁走者の内川が、ウッズの打ったショートゴロで二塁に走った際、両手を頭の上に高く挙げてスライディングしたために、タイガースのセカンドの沖原の一塁送球がその手に当たって、併殺をまぬがれるということがあった。
このプレーに対し、タイガースの星野監督は守備妨害ではないかと抗議した。当然の抗議だった。ウッズのショートゴロは強い当たりで、ゴロを捕った藤本が沖原にトスしたときには、内原はまだ二塁ベースの何メートルも手前にいた。そんな場所から両手を高く挙げてすべりこむというのは、一塁送球を妨害するため以外に考えられないからだ。
しかし、審判は守備妨害を認めなかった。
「走者に故意性があった場合は守備妨害とするが、きょうの場合は自然の走塁と判断してとらなかった」
内川はうまくやったのである。あるいは、頭脳プレーという人もいるかもしれない。じっさい野球にはそういうプレーが許される面があり、送りバントをしたバッターがキャッチャーのボールへのダッシュを邪魔するために、すぐ一塁に走らずに、しばらくホームベース付近にとどまっている光景などはじつにしばしば見かける。
だが、試合後の星野監督は、守備妨害のことを離れ、つぎのようにいって、べつのことを問題にした。
「内川もケガするぞ。致命傷になる。ただでさえ、ケガが多いやつなのに」
この言はまったく正しい。
昭和四十七年だから、いまから三十一年前のことである。七月九日に神宮球場でおこなわれた第一回日米大学野球選手権の第二戦でいたましい事故が起きた。
七回表の日本の攻撃で、ヒットで出塁した早稲田大学の東門明という選手が、一死後、中央大学の藤波行雄(のちドラゴンズに入団)の打ったセカンドゴロで二塁に走った。内川のケースと同じである。セカンドからの送球を受けたアメリカのショートは、当然のごとく併殺を狙って一塁に送球した。ところが、東門はすべりこもうとも、送球から逃げようともせずに、二塁に走って行った。そうすればアメリカのショートが送球をひるんで併殺を防げると思ったのかもしれないが、真相は分らない。一塁送球のボールは東門選手の頭部を直撃し、東門は意識不明のまま五日後に脳挫傷で死亡してしまったのである。
以後、日本でもアメリカにならい、二塁ベース上でクロスプレーにならないと分った場合は、一塁ランナーは一塁送球のボールを避けるために、走塁線上でしゃがみこむか、ライト方向に逃げるようになったと記憶している。したがって、内川のやったプレーは三十年以上前の特攻野球といっていい。彼はまだプロ三年目の若い選手だが、どこでそういう野球を教えられたのだろう。じつにつまらぬプレーだった。