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松坂大輔 圧倒的な一番でいたい。エースの貪欲な欲望。
text by
吉井妙子Taeko Yoshii
photograph byHideki Sugiyama
posted2008/03/18 00:00
レッドソックスの松坂大輔はこのオフ、100件近い取材依頼をほとんど断り、トレーニングに没頭した。
移籍1年目にしてワールドシリーズ優勝の美酒を味わい、15勝12敗の成績は先発投手として十分な働きを示した。先発投手陣の中では唯一、ローテーションも守り切った。本来なら、胸を張ってシーズンの成果をメディアに語ってもよさそうである。だが、松坂の考え方は違った。
「こんな成績に満足できるわけがないじゃないですか。勝ち星はまだしも、負け数が多すぎる。防御率4.40というのも納得できない。不満足な成績なのに、ニコニコとメディアの前で野球のことなんて語りたくないですよ」
口をとがらせながら語る松坂の横顔を眺めつつ、野球選手として手のつけられないほどのプライドの高さ、白球に対する燃えたぎるような思いを改めて知らされた。
思えば、松坂は子供のころから常に野球で一番だった。誰もが認めるエースでなければ自分を許せない。小学校5年の時に松坂の失策で負けた試合があった。父・諭さんは今でもその時の息子の姿が忘れられないという。
「火を噴くような泣き方というんですかね、人間はこんなにも泣けるのかと驚きました。大輔の究極の負けず嫌いの性格を認識した一件でもありましたけど」
常に一番でいたい。一瞬も揺るぐことのない考えがあるからこそ、横浜高校時代に春夏の甲子園を制し、西武時代にはエースとしてチームを日本一に導き、日本代表としても2度五輪に出場し、WBCでは世界一に輝き、自らのMVPも引き寄すことができたのである。
プロ野球界では“松坂世代”と言われる1980年生まれが多く活躍している。松坂はそのトップランナーといえるが、目を光らせこう断言したことがある。
「トップだからいいというもんじゃないですよ。僕は、2番目が遥か彼方に霞むほどずっと先を行っていたいんです」
レッドソックスにも“松坂世代”がいる。エースでリーグ最多勝(20勝)を挙げたベケットだ。普段は一番の仲良しだが、彼の存在は刺激的でもある。シーズン終了後、松坂はぽつりと言った。
「今年はあいつに先に行かれちゃったなあ……」
ツルツル滑るボール、マウンドの高さや土質の違い、異なるストライクゾーン、移動の多さ、時差などメジャー移籍1年目は野球環境の違いに慣れるのに苦労したが、そんなことを差し引いても、ベケットに実力で負けた悔しさは消えなかった。何気に呟いた言葉に、「来年はそうはさせない」という決意が読み取れた。
日本一の負けず嫌いから世界一の負けず嫌いへ。松坂は妥協を知らない。