MLB Column from USABACK NUMBER
ア・リーグ東地区 コンピュータが予想する「波乱」
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images/AFLO
posted2008/03/24 00:00
選手・チームの成績をコンピュータ予想するPECOTAについては、この欄で何度も触れてきた。実は、コンピュータ予想システムはPECOTA以外にもたくさんあるのだが、なぜ予想システムがこうも氾濫するかというと、その最大の理由は「ファンタジー・ベースボール」というゲームがファンの間で大流行していることにある。
ファンタジー・ベースボールについて書き出したらきりがないのだが、簡単に説明すると、ゲーム参加者が開幕直前の「ドラフト」で仮想チームを結成、現実に進行中のシーズンと連動させた「所属」選手の成績に基づいて勝敗を競う、というものである。しかも、ファンタジー・ベースボールは「賭け」として行われるケースがほとんどなので、賭けた金を失いたくなかったら、ドラフト時に「今季活躍すると予測される選手をたくさん獲得する」ことが重要となる。だからこそ、よく当たるコンピュータ予想が重宝されるようになったのである。
というわけで、開幕を目前とした今、コンピュータ予想があちこちに氾濫しているのだが、個々の選手の予想成績を基に、チームの勝敗が簡単に予想できることは、以前にも説明した。以下、ア・リーグ東地区について、PECOTA、CHONE、CAIROと、異なる三つのコンピュータ・システムによる「予想勝利数(括弧内は順位)」を示す。
<ア・リーグ東地区コンピュータ予想>
チーム | PECOTA | CHONE | CAIRO | 平均 |
ヤンキース | 97(1) | 92(1) | 96(2) | 95(1) |
レッドソックス | 91(2) | 92(1) | 97(1) | 93(2) |
レイズ | 89(3) | 89(3) | 78(3) | 85(3) |
ブルージェイズ | 79(4) | 83(4) | 87(4) | 83(4) |
オリオールズ | 66(5) | 65(5) | 69(5) | 67(5) |
三つのシステムの間で大きく食い違う部分もあるが、全体の傾向を総括すると、「本命・対抗:ヤンキース、レッドソックス」、「穴:レイズ、ブルージェイズ」、「問題外:オリオールズ」ということになるだろう。
ここで注目されるのは、レイズ89勝、ブルージェイズ87勝とする予想があることだ。というのも、これらの予想は、「穴」のチームがプレーオフ進出争いに加わる可能性が高いことを意味し、怪我人とかの予測不能要因の現れ方次第によっては、ヤンキースでもレッドソックスでもなく、たとえばレイズがプレーオフに進出するという、とんでもない「波乱」が起こり得るからである。昨季までだったら、「レイズがプレーオフに出る可能性」などと言おうものなら、冗談として相手にされなかったものだが、今季は、「笑って済ませられない」現実味を帯びているのである。
これまで10年近く、ア・リーグ東地区では、ヤンキース、レッドソックスの二強がプレーオフ進出権を独占し続けてきた。いま、その戦力バランスに大きな変化が生じ始めているのは、各チームで「若返り」が急速に進行、特に、投手陣の「若返り」が著しいからである。以下に示すように、どのチームも、新人・準新人の若手投手を少なくとも2人、先発陣に擁しているのである。
<先発陣中の新人・準新人投手>
ヤンキース:フィリップ・ヒューズ、イアン・ケネディ
レッドソックス:ジョン・レスター、クレイ・バックホルツ
レイズ:スコット・カズミア、ジェイムズ・シールズ、マット・ガーザ
ブルージェイズ:ダスティン・マクゴワン、ショーン・マーカム
オリオールズ:アダム・ローウェン、ガレット・オルソン
これまでだったら、ヤンキース、レッドソックスのような財力のある球団は、実績のある投手ばかりを集めることで、「計算ができる」ローテーションを編成したものだった。それが、まるで、財力のない球団のやり方をまねるかのように、投げさせてみないとわからない若手投手にその命運を託すようになったのは、「自前で若手投手を成長させた方が、長期の戦略を考えたとき有利」と、考え方が変わってきたからである。今季、コンピュータが「波乱」を予想するようになった理由がおわかりいただけたろうか。