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日本の“ものづくり魂”から生まれた、
上村愛子の金メダル・ブーツ。 

text by

茂木宏子

茂木宏子Hiroko Mogi

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photograph byKYODO

posted2010/02/09 10:30

日本の“ものづくり魂”から生まれた、上村愛子の金メダル・ブーツ。<Number Web> photograph by KYODO

レクザム独自のブーツ理論『A-ONEコンセプト』とは?

 レクザム独自のブーツ理論となった『A-ONEコンセプト』も、こうしたネットワークから生まれたものだ。

「オーストリアのシュー・マイスター(国が認定した靴職人)で、アルペン選手のブーツを長年チューンナップしているヘルベルト・アウエルとヨハン・ライトナーの2人が提唱していた理論です。彼らによれば“今のブーツは形ばかり意識してつくっているので、当たる場所がどの選手もほとんど同じ”。それを改善するための手立てとして考案された理論を私も勉強し、1つ1つ検証したうえでブーツづくりに応用したんです」

 自らの技術に自信を持つ大手メーカーはこの理論に見向きもしなかったが、「海外製品のコピーでは大手に対抗できない」と実感していた林たちはこの理論に飛びついた。

足への負担が少ないレクザムのブーツはこうして生まれた。

 一般的なブーツを履いた場合、安定した状態で立とうとすると、スキーはつま先が少し開いたV字になる。この状態から左右のスキーを平行にそろえて滑るには、膝を内側にキュッと絞り込まなければならず足に大きな負担がかかる。そこで自然に立った状態でスキーが平行にそろうよう、つま先がやや外向きになるようにブーツ内の足の位置を設定。膝を内側に絞らなくても左右のスキーが自然にそろうように工夫した。ラスト(木型)の設計も当たりやすい親指と小指がまっすぐ伸ばせるようになっており、足にやさしい構造だ。

写真従来のスキー板の常識をやぶった足の配置で選手の負担を軽減した

「このブーツは金型から独自に起こしたんですが、マンションがいくつも買えるほどの投資だったので、さすがに会社側からストップがかかりました。“来年は1円でも黒字にします”と約束することでようやく認めてもらうことができたんです」

 当初は「レクザムのブーツを履くとO脚になるのでスキーがうまくならない」などと中傷されることも多かったが、販売店向けに解説ビデオをつくって講習会や試乗会を積極的に開催。その良さを理解した専門店が次第に扱ってくれるようになった。“1円でも黒字”の約束は何とか守られたのである。

【次ページ】 ヨーロッパのトップアスリートもレクザムでメダルを狙う。

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