イチロー メジャー戦記2001BACK NUMBER
閃光。
text by
奥田秀樹Hideki Okuda
photograph byNaoya Sanuki
posted2001/04/13 00:00
4月11日のアスレチックス戦、イチローがメジャー初捕殺をマークした。8回裏、1死一塁。ライト前ゴロのヒットをダッシュよく前進してさばくと、三塁へ矢のような送球、俊足のテレンス・ロングを刺したのである。
「なんというすごい肩なんだ」、「みなさんこれがイチロースズキというプレーヤーです」
ESPNの名物アナウンサー、チャーリー・スタイナーの声が震える。彼は新しい才能を発見した喜びにすっかり熱くなっていた。前日、イチローに向けて硬貨を投げつけたマナーの悪いオークランドのファン達も、がっくりと肩を落とす。
試合後、興奮した日米の記者達がクラブハウスの51番に殺到する。しかし彼は椅子に腰掛け視線を壁にむけたままだった。
助走がついたから強い球を投げられたの?
「はいそうです、自然な動きです」。イチローは多くを語らない。
対照的に監督室ではルー・ピネラが「素晴らしいスローイングだ。ゲームの流れを変えた」とはしゃいでいた。
ところで、現在のメジャーでは肩の強い外野手といえばドミニカ勢である。エクスポズのブラディミア・ゲレーロ、ブルージェイズのラオウ・モンデシー、デビルレイズのホセ・ギレン、レンジャーズのルーベン・マティオらの名前が挙がる。
彼らの肩は桁外れで、外野の深いところから三塁へ、本塁へとノーバウンド送球が届く。ただし荒っぽさも目立つ。特にゲレーロはボールがバックネットにいってしまったり、相手のベンチにいってしまったりする。カットオフマンを見逃すことはしばしばだ。ゲレロは2年前19個のエラーを記録した。去年その数は10個まで減ったが、依然メジャーで最も失策の多い外野手である。
近年、最高の外野手と言えば、ドジャース時代は野茂のチームメイトだったモンデシーになるだろう。そしてイチローはモンデシーに挑む存在である。
エンジェルスのマイク・ソーシャ監督は春のキャンプであたった時、こう解説していた。
「特に目を引いたのはボールへの寄りが早い事。メジャーには肩の強い外野手がたくさんいるが、イチローがボールに追いつくのが早い分、そこに大きなアドバンテージが生まれる」
この日のプレーもそうだった。アスレチックスのベンチは十分にイチローの肩を警戒していたし、スコアは0対3だったから無理はしなくてよかったはずだ。しかしこの時、守備位置は深かったから、悠々セーフになると判断したのだ。ところがすごい速度でボールに寄り、素早いモーションで三塁へ投げた。
マリナーズのジョン・モーゼスコーチは「ケン・グリフィーJrも肩が強いといわれていたが、イチローのは正確なうえに低くまっすぐにとんで来る」と微笑む。早すぎるかもしれないが、ゴールドクラブ賞は半分手に入れたようなものである。