イチロー メジャー戦記2001BACK NUMBER
急襲。
text by
奥田秀樹Hideki Okuda
photograph byNaoya Sanuki
posted2001/04/11 00:00
去年、マリナーズで1番打者を務めたのは、将来、殿堂入り確実のリッキー・ヘンダーソンである。41歳のヘンダーソンは打率.233で全盛期に比べると力は落ちていたが、相変わらずしつこく、頻繁に四球を選び出塁していた。92試合で63四球、31個の盗塁を決めている。
ヘンダーソンの最大の勲章は通算1370盗塁だが、もう一つメジャーの歴史を塗り替えようとしているのが四球数で2060個、あのベーブ・ルースの記録2062個にあと2個と迫っている。
ヘンダーソンは初球にはまず手を出さなかった。待って、待って、相手ピッチャーに球数を投げさせ、疲れさせる。このアプローチは去年のマリナーズの方針ともぴったり一致していた。ルー・ピネラ監督は待球作戦を命じ、同チームは昨シーズン、アリーグ最多の775四球を選んだのである。おかげでチーム打率がアリーグ12位と下の方だったにもかかわらず、出塁率は上位だった。それが91勝71敗の好成績につながっている。
さて、そのマリナーズの一番打者の座はヘンダーソンからイチローに引き継がれた。イチローは日本時代からそうだが初球からどんどん打つし、四球は少ない。3月のオープン戦でも初球、2球目からあっさり打っていた。
そこでマリナーズの参謀ジョン・マクラーレン・ベンチコーチに「1番打者がこれでいいのか?」と不躾に尋ねてみた。
「待球作戦は確かに去年までは効果があった。ヤンキースもそれで成功したしね。しかし、今年はストライクゾーンが広がる。アンパイアが本当にその通りコールしつづけたら、待球作戦は意味を持たなくなる。野球の戦略そのものが大きく変わるかもしれない。我々現場のコーチは、実際のところゲームの戦略がどう変わるのか、どう戦えば有利にゲームを運べるのか、試行錯誤しながら戦っているんだ」。
追い込まれたら、広いストライクゾーンのために難しい球を打たされる確率が高くなる。そうなるくらいなら、好球必打で最初からアグレッシブに行った方がいい。
ちなみに、マリナーズのライバル、エンジェルスの一番打者ダリン・アースタッド、アスレチックスのジョニー・デイモンもアグレッシブだ。四球は少なく、アースタッドは去年240本、デーモンは214本のヒットを打った。
イチローは今年、6試合で29打数11安打、四球は1個だ。チームは4勝2敗と絶好のスタートを切っている。
「おそらく、1番打者にとって現時点で最も大切なのは出塁率を高くすること」とマクラーレンコーチ。その点で、ヘンダーソンとは異なる形でだが、十分務めは果たしているのである。