イチロー メジャー戦記2001BACK NUMBER
交錯。
text by
奥田秀樹Hideki Okuda
photograph byHitoshi Mochizuki/AFLO
posted2001/04/18 00:00
「イチロー関連の質問は一切受け付けません」
春のキャンプの期間中、テンピのディアブロスタジアムの長谷川滋利のロッカーには、英語の張り紙が貼ってあった。
入れ替わり立ち代り記者が訪れては同じ質問をする。うんざりして、とりあえずは、知らん顔を決め込んだのだ。
もっとも、彼はその辺の記者連中以上に、オリックスの後輩が米国でどれくらいやれるか楽しみだし、心が騒いでいたはずだ。
著書『適者生存』の中で、「イチローがメジャーに来るのをすごく楽しみにしている。メジャーでも超一流の選手にまで上り詰めて欲しい」と書いている。さらに「自分の現在の実力を試したい。オリックス時代より速球のスピードもあがったし、日本のナンバー1の打者とあたって、実力がどれくらいか評価のバロメーターになる」とも付け加える。
ところが、そんな楽しみだとか、バロメーターだとかいうような悠長な気分は一瞬にして吹き飛んでしまった。
既に報道されている通り、4月13日から15日の3連戦で、重要な局面で早くも2度も対戦。そして結果は、イチローがショートへの内野安打で出塁した試合は、他を抑えて勝ち投手になり、イチローが一塁ゴロと抑えられた時は他の打者にメッタ打ちにあい逆転負けを喫したのである。
勝った後はユーモアを交え饒舌だった長谷川だが、負け投手になった後は、「今日はちょっと」と一言だけで、無愛想にクラブハウスをあとにした。
思い起こせば、去年の10月1日、マリナーズは長谷川を打ち砕いてプレーオフ出場を決めたのだ。その口惜しさ、屈辱はまだ生々しく残っているのだろう。いつもはマスコミに行き届いた応対をするのに、あの時も一切口を開かなかったのである。
セットアッパーといっても、チームメイトや首脳陣は長谷川をエースのように語り、信頼を寄せている。それだけに、プライドが許さなかったに違いない。マリナーズは今や最も負けたくないチームのうちの一つのはずである。
ちなみにイチローは「長谷川さんはマウンドで躍動感があった。守備とか攻撃も含め、回りを巻き込んでいくような感じで、いいリズムを作っていたし、すごく自信に溢れて投げていた」と感想を語っている。
今季、両チームは19回も対戦する。2人の対戦は、何度も見られることだろう。長谷川は左打者に対しては基本的に、フォーシームの速球と落ちるシンカーで攻める。イチローは初対決では速球、2度目はシンカーで初球を打った。
「普段良く話す相手だし、これからの対戦はもっと面白いことになると思う」。乞う御期待である。