Column from GermanyBACK NUMBER
マインツ、躍進の意外な理由
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byAFLO
posted2004/10/27 00:00
いきなりですが問題です。
(1)マインツ05の本拠地はどこにあるでしょうか?
(2)開幕前、彼らはどんなトレーニングをしたでしょうか?
(1)は地図を見たらすぐに分かる。フランクフルト空港から電車で北西に30分、小さな町だが一応、州都である。(2)は……恐らく正解率ゼロのはず。ではここから答えを紹介します。
スウェーデンの森の中で行なわれたキャンプはボールなし。彼らは一度もシュートもセンタリングも練習しなかった。選手は携帯電話の持込が禁止された。そして驚くべきことに、ホテルに泊まることもなかった。
毎日毎日、彼らは川や湖をカヌーで回り、夜になれば人っ子一人いない真っ暗な森の中にテントを張って寝た。電気もない。トイレもない。シャワーもない。マッチもない。食事の支度は、近くから拾い集めた木片を集めて古代人さながらに火を起こした。こうやってパンを焼いた。
「だから、なのさ」と語るのはユルゲン・クロップ監督だ。「選手が共同体験をすることでチームの一体感が生まれる。体験が過激であればあるほど、一体感は深まる」というのだ。
合宿について問われ、「誰もわれわれを邪魔することができなかった」とマスコミを煙に巻いたクロップだが、「長い目で見たら、われわれは大きなチャンスを必ずモノにできる意識を育て上げたと評価されるだろう」と先見の明を誇った。
ある集団を一度に同じ場所で治療するのをグループセラピーと言うが、クロップのとった奇策はまさにこのやり方である。選手は患者ではないが、厳しい環境に一緒に置かれ、すべての体験を共有したため、個を超えた存在を強く意識するようになった。
それまで2部で何年も“万年上位”を味わい、つねにあと一歩のところでブンデスリーガ昇格を逃してきた彼らにとって、目の前の壁を超える苦労は身に染みている。ようやく昇格した彼らに必要な要素は、テクニックでも体力でもなく、長く厳しいシーズンを乗り越える精神力だったのだ。
開幕戦で敗れて以降、8節まで負け知らずの3位と大活躍のマインツ。躍進の秘密は実にユニークである。