MLB Column from WestBACK NUMBER

継続の強さを見せた田口壮 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2006/11/06 00:00

継続の強さを見せた田口壮<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 昨年の井口資仁選手に続き、カージナルスの田口荘選手が、日本人選手としては2人目(シリーズに選手登録されなかったヤンキース時代の伊良部秀輝投手は除く)となるワールドシリーズ覇者となった。2002年のカージナルス入団以来たびたび取材をさせてもらった1人として心から祝意を述べるとともに、どんな時でもメディアに対して協力的姿勢を貫いてくれた同選手に改めて感謝したい気持ちで一杯だ。

 残念ながらワールドシリーズの取材にまわることができず決定的瞬間に立ち会うことができなかったが、やはりこのコラムでは、シーズンの締めくくりとして田口選手を取り上げてみたいと思う。

 “終わりよければすべてよし”のたとえではないが、念願のワールドシリーズを制し、現在の田口選手はすべての努力が報われた成就感を満喫していることだろう。特にプレーオフに入ってからの彼の活躍は、その存在感を人々に知らしめる、本人にとっても会心の出来だったと思う。だがシーズン中の田口選手といえば、プレーオフで味わった充実感とは裏腹に、一時は欲求不満に陥っていたほど苦しみ、悩んでいたこともあったようだ。

 仕事上、シーズン中は日本人メジャー選手のブログや日記をチェックするのを日課にしているのだが、なかでもほぼ毎日欠かさず様々な話題を取り上げてくれる田口選手の日記は、個人的にも楽しみにしているほど実に読み応えがあるものだ。時には田口選手が「日記の内容が記事のコメントに使われた」と愚痴をこぼすほど、メディアの情報源として利用されることも少なくない。その日記で夏頃だったろうか、「もっと試合に出たい!」と不満を漏らしたことがあったのを今でも記憶している。

 昨年はカージナルス4年目で自身最高の成績を残していた田口選手。エドモンズ、ウォーカー、サンダースという3人のベテラン外野手の休養ローテーションに合わせ、先発出場が増えたわけだが、一方で3選手の替わりということもあり守備位置は外野すべて。最終的に出場試合数を143まで増やした田口選手は「定位置を持たないレギュラーですからね」と苦笑いしていた。しかし今季はウォーカー、サンダース両外野手がチームを去り、キャンプから我々メディアだけでなく、田口選手本人も定位置確保を相当期待していたことだろう。

 だが、いざシーズンが始まってみると、ラルーサ監督は7月以降25歳の大型左打者のダンカン選手を左翼先発で起用するようになり、さらに8月に入りアストロズを解雇されたウィルソン選手も獲得。田口選手の先発機会は明らかに減っていった。先発出場が不確定になったため、こちらも夏以降は直接取材に訪れることができなくなった、そんな時期に日記で彼は上記のような発言をしたわけだ。

 「このチームで一番体力があると思いますよ。誰にも負けないでしょう」今年チーム最年長でキャンプを迎えた田口選手だったが、コンディショニングに関しては間違いなくチーム一の理論家だったし、本人の言葉通り他の選手以上の体力を誇っていた。そんな田口選手が控えに逆戻りするという環境を素直に受け入れるのは簡単ではないだろうし、本人の中でも相当の葛藤があったはずだ。それでも自分の中でそんな不満を消化させ、最後まで田口選手の役目を全うし続けた。

 「ソウはベンチにいる強力な武器になっている。彼は試合の終盤になるといい働きをする。プレッシャーのかかる場面で怖じ気づいたりしない」

 ワールドシリーズまで田口選手を先発起用しなかったラルーサ監督は、チーム内での彼の存在意義を以上のように説明している。一方で同監督は以前に「ソウは他のチームならレギュラーだ」と彼の実力を十分に認める発言をしている。つまり指揮官にとって田口選手は、先発で使うには惜しすぎる、他に代わりがいない貴重な存在になっているのではないだろうか。

 パドレスとのディビジョン・シリーズの際、外野で球拾いをする田口選手が手にするグローブが気になり質問したことがあった。

 「内野手用です。(9月8日に)二塁を守らされて後、すぐに送ってもらいました」

 多少無理難題でも首脳陣の要求に一生懸命応えようとする田口選手。いわゆる“器用貧乏”的な部分は否めない一方で、日本人選手らしい器用さと真面目さがカージナルス内で他の選手にない異彩を放っている。移籍が日常茶飯事のメジャー球界にあって、準レギュラーの選手が5年間同一チームに在籍するというのはかなり珍しいことだし、カージナルス内でも2002年からメジャー選手としてチームに残っているのは田口選手以外ではエドモンズ、ローレン(2002年途中移籍)、イシュリングハウゼンの3選手しかいない。

 成績だけでは推し量れない田口選手の存在感の大きさを改めて痛感する次第だ。

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