濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
バダ・ハリがK-1GPに蘇らせた
“黄金の輝き”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2009/12/17 10:30
決勝でシュルトは1回から猛攻をしかけ、3度のダウンを奪いKO勝ち。準々決勝から3試合連続で1回KOで優勝したのは'98年のピーター・アーツ以来2人目の快挙である
ここ数年、格闘技界におけるK-1 WORLD GPの存在感は薄れる一方だった。直後の大晦日に開催される『Dynamite!!』に話題性を奪われてしまったこともあるが、原因はそれだけではない。毎年、同じような顔ぶれがトーナメントを闘い、上位進出選手が固定したことで刺激がなくなってしまったのだ。この6年間にいたっては、セーム・シュルトとレミー・ボンヤスキーしか優勝を果たしていない(それぞれ3回)。技術レベルの向上による判定決着の多さが、刺激をさらに失わせた。
だが、今年のGPファイナルは違った。結果としてシュルトが史上最多タイとなる4度目の栄冠を掴んだのだが、それでもリング上は刺激に満ちていたのである。トーナメント7試合中、KOが6試合。しかも、その6試合すべてが1ラウンド決着だった。選手たちはこの日、昨年までとは打って変わって火がついたかのように激しく殴り合い、蹴り合ったのだ。
“因縁の対決”に燃えたファイターたち。
選手たちを熱くさせたのはバダ・ハリの存在だった。準優勝に終わったものの、彼がトーナメントのMVPだったことは間違いない。準々決勝でぶつかったルスラン・カラエフは、過去バダ・ハリと1勝1敗の戦績を残している。ラバーマッチ(同一選手同士の3試合目)とあっては燃えないわけがなかった。準決勝の相手はアリスター・オーフレイム。総合格闘家であるアリスターがK-1に参戦することになったのは、昨年大晦日にK-1ルールでバダ・ハリをKOしたのがきっかけだった。「MMAに比べたらK-1は楽だな」というコメントによって、彼は“K-1史上最大の外敵”とみなされることになった。
つまりバダ・ハリは連続で“因縁の対決”に臨んだのだ。そして、2試合とも1ラウンドでKO勝利を収めている。ゴング直後から猛烈な勢いでパンチを連打し、瞬く間に敵をマットに這わせてしまったのだ。思いきり拳を振るうスタイルは隙だらけにも見えるのだが、あまりのスピードゆえ相手は反撃できない。それほど凄まじいラッシュだった。
逆ブロックの選手たちも、バダ・ハリを強烈に意識していた。レミー・ボンヤスキーは昨年の決勝戦でバダ・ハリと対戦。転倒した直後にパンチ浴び、踏みつけられて反則勝ちとなったのだが、そうして得た優勝は栄光とはほど遠いものだった。試合後には「反則のダメージで続行不能になったのは演技じゃないか」と批判されもした。そんなボンヤスキーが、王座を守るなどという消極的な姿勢でGPに臨むはずはなかった。準決勝で敗れたボンヤスキーだが、2試合ともダウンを奪うアグレッシブな闘いを見せている。