杉山茂樹のサッカー道場BACK NUMBER
W杯は名勝負を探す旅である。
~好試合を演じてきた韓国に注目!~
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byAFLO
posted2010/01/13 10:30
南アフリカ・ヨハネスブルクにあるサッカーシティ。開幕戦と決勝戦が行なわれる。ここでどんな名勝負が生まれるか?
南アW杯では何試合の“宝”を目撃できるだろうか。
そうしたなかで、当たりの試合にいくつ遭遇できるか。取材を申請する試合に頭を痛める最大の理由は、名勝負を見逃したくないからにほかならない。名勝負という宝を探し求める旅。これこそが僕にとっての旅の隠れたテーマになる。それを求めて、開催国を東へ西へ1カ月間、右往左往する。五輪の旅のテーマが、日本人の金メダルを生でいくつ見たかだとすれば、W杯は名勝負との遭遇なのだ。
過去3度のW杯で、僕は日本の試合を9試合観戦しているが、残念ながらそのなかに名勝負は含まれていない。今回の組分けが、過去3度で最も苦しい抽選結果だという現実を踏まえると、なおさら名勝負を求めたくなる。
名勝負なき日本と対照的に強い印象を残している韓国。
唯一観戦していない試合は、宮城スタジアムで行なわれた'02年大会の決勝トーナメント1回戦、対トルコ戦だ。僕はその日、韓国の大田でイタリア対韓国を観戦していた。取材申請の締め切り寸前まで迷った挙げ句、博打を打つようなつもりで、大田を選択した。長らく両者を天秤にかけた末の、一か八かの決断だった。
結果は大当たりだった。イタリア対韓国は、大会屈指の名勝負となった。大田のスタジアムを埋め尽くした韓国人ファンは、韓国の勝利を願っていたというより、好勝負に酔いしれていた。韓国がそこでイタリアに敗れても、スタンドから万雷の拍手を浴びたに違いない。それほど、感動的な試合だった。
韓国は、続く'06年ドイツ大会でも良い試合をした。グループリーグ最終戦。対スイス戦だ。試合は2-0でスイスの勝利に終わったが、思わずこちらも拍手を送りたくなるようなナイスゲームだった。詰めかけた韓国ファンも、敗れて引き上げてくる自国の代表選手に盛大な拍手を送った。まさに美しい散り際だった。
負け試合でも好勝負を演じる韓国を今大会でも注目すべき。
韓国はこれまでのW杯で、勝てないまでも記憶に残る試合をいくつも演じている。'86年メキシコ大会でも、アルゼンチン、イタリア、ブルガリアを相手に、3試合とも好勝負を演じている。
'98年フランス大会で、オランダに0-5で大敗した試合でも、好感度の非常に高い試合を演じている。「あの戦いぶりを見て感動した。ああいうサッカーをするチームは強くなる」と、時のオランダ代表監督で、続く'02年大会で韓国代表監督を引き受けたヒディンクは、その就任直後のインタビューに答えている。
'02年大会で収めたベスト4は、そうした好試合の積み重ねの成果にほかならない。韓国は今回、アルゼンチン、ナイジェリア、ギリシャと同じ組で戦う。いずれも打って出るはずなので、好試合必至だ……。
そんなこんなを思いながら、いま僕は南アW杯のスケジュール表と向き合っている。僕の試合選択センスは吉と出るか凶と出るか。初詣のおみくじでは「吉」だったのだが、結果はいかに。