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予想が当たらないから面白い、CL開幕。 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byTomohiko Suzui

posted2005/09/21 00:00

予想が当たらないから面白い、CL開幕。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 チャンピオンズリーグが開幕した。と、同時にイギリスのブックメーカーが、優勝オッズを発表した。

 1位チェルシー(6倍)、2位バルセロナ(7)、3位ユベントス、インテル、ミラン(9)、6位マンU(12)、7位レアル・マドリー(13)、8位リヨン、バイエルン、アーセナル(15)、11位リバプール(19)、12位ビジャレアル(26)、13位アヤックス(51)……。

 いつも思うのだけれど、このオッズを付ける予想屋さんはどんな人なのだろうか。欧州サッカーに詳しい人物は、世の中に自称を含めれば無数に存在する。取材を長く続けているベテランジャーナリストや、目利きの評論家も数多い。だが、僕の知る限り、そこに「トリの目」を持った人は多くいない。イタリア人も、スペイン人も、イギリス人も、フランス人も、ドイツ人も、欧州全域の話をする時、自分の住む場所から見た目を語る。おのずと、自国のチームに肩入れする癖がある。客観的な目で冷静に論評できる人は稀だ。

 その意味で、ブックメーカーは貴重な存在だ。唯一の例外と言えるかも知れない。特にチャンピオンズリーグの場合は、大いに参考になる。欧州全体の話を、ここまで客観的に分析できる人物は他にいないんじゃないか。そして今回も、その見識の高さには脱帽せずにはいられない順位を発表した。お見事!あなたには叶わない。細部にまで目が行き届く様子は、その順位に目を凝らすほど明らかになる。

 しかし、それでも予想は当たらない。その1位から4位までがベスト4を占めることは絶対にない。実際、昨季も、一昨季も想像を絶する答えが導き出されている。そこがサッカーというか、チャンピオンズリーグの醍醐味だと僕は思う。どんな優秀な頭脳が頭を捻っても、宝の在処は分からない。これ以上のスペクタクルはない。ブックメーカーのオッズは大いに参考にしたいが、何かそこに波乱の要素は隠れていないか。自ずと、独自の予想話に花が咲く。

 チェルシーは強い。相当に。でも優勝はない。僕はそこから推理を始めることにしたい。思い出すのは昨季の準決勝、対リバプール戦だ。モウリーニョはリバプールの決勝ゴールを「ゴールラインを割っていなかった。アレがなかったら……」と、コメントしているが、僕にはアレがなかったとしても、チェルシー勝利の姿を想像することができない。良くてPK勝ち。あと30分試合をしても、チェルシーはリバプールから得点を奪うことはできなかったと見ている。

 リバプールと準々決勝で対戦したユベントスにも同じ印象がある。あと何分やっても、ユーヴェはリバプールから得点を奪うことができなかった。

 リバプールと決勝を戦ったミランは別だ。延長戦があと10分あったら、ミランはリバプールからゴールを奪うことができたと思う。ただし、あの時は、ハリー・キューウェルが早々に故障で退場する不運がリバプール側にあった。もし交替枠が一人残っていたら、リバプールは、延長の後半を5バック気味の布陣で、半ばクリンチ状態のように守ることはなかったのだ。

 というわけで僕は、リバプールの11位(19倍)を見た瞬間、これは買いだと閃いた。このチームには穴がない。180分の試合になると、特にそれが相手にボディブローのようにじわじわ利いてくる。

 推理を進める時、最大の障害は「運」になる。「サッカーの試合で運が占める要素は3割」といったのはトルシエだが、その解釈には僕も100%賛同する。運も実力のうちという言葉があるが、そうじゃない場合がサッカーには山ほどある。決勝トーナメントの組み合わせもその一つ。昨季のように1回戦で、優勝オッズの1位(バルサ)と2位(チェルシー)が、対戦することを戦前、誰が予想しただろうか。チャンピオンズリーグは本当にミステリアスだ。そしてそのミステリーの中身は間違いなく超一級。最高のエンターテインメントだ。これから9ヶ月間、僕はそれとお付き合いできる幸せを、いましみじみと感じている。今季の「真犯人」は誰なのか。もちろん、お楽しみは犯人探しだけに終わらない。ピッチ外にはそれ以上のお楽しみがぎっしり詰まっている。そちらの方は、今季もまた別連載「カンポをめぐる……」の方でご報告させて頂きます。

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