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超人イチローと加齢の波。
~稀代の安打製造機に送るエール~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2011/06/17 10:30
5月の月間打率はメジャー11年目で最低の2割1分。現時点では、10年間続けてきたオールスターへの出場も危うい
当然だと思っていた「超人イチロー」像の変化に戸惑う。
たしかに、内野ゴロは多い。イチローの悪しき特徴ともいうべき弱々しい凡退も、例年に比べて増えているといわざるを得ない。これはあくまでもメカニズム的な問題だろうか。それとも、「バットスピードの衰え」というきわめてフィジカルな問題が、根本にかかわっているのだろうか。
正直なところ、私は結論を急ぎたくない。
なるほど、37歳という年齢がむずかしい曲がり角であることは、歴史上の一流選手を例に引いても否みがたい事実といわなければならない。だが、私もふくめてわれわれ日本人の観客は「超人イチロー」の像を彼に押しつけすぎてきたような気がする。10年連続200本安打という大リーグ史上他に類を見ない偉業さえも、いつしか当然の事態と受け止める習慣が生まれていたのではないか。
大リーグ通算3000本安打を目標にした、幸福な「野球的余生」を。
その考えに、一度休止符を打ってみたい。
むしろ私は、残り684本に迫った大リーグ通算3000本安打を現実的な目標にしてもらいたいと思う。もし40歳ごろにこの里程標を突破すれば、イチローの「野球的余生」はいまよりも幸福な色合いを帯びるのではないか。
イチローよ、悩むことはあるだろうが、焦ることはない。プライドに押しつぶされて短気を起こすこともない。きみはもはや、十分すぎるほどの仕事をなしとげてきた。これからは頻度が増えるだろう好不調の波に振りまわされることなく、悠然とした足取りで長い道のりを歩んでもらいたい。ご承知のとおり、タイ・カッブは41歳まで活躍した。ハンク・アーロンも42歳まで働いた。あのピート・ローズだって、引退したのは45歳の年だったではないか。