プロ野球偏愛月報BACK NUMBER
「野球留学」のプラス効果に目を向けよ。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2005/09/05 00:00
夏の甲子園大会は駒大苫小牧高が57年ぶりとなる2連覇を達成し、大いに盛り上がった。駒大苫小牧高以外でも、MAX156キロの快速球投手・辻内崇伸、高校通算70本塁打の平田良介(中堅手)、1年生にしてMAX147キロの快速球と広い甲子園球場に本塁打をぶち込むスラッガーの素質を併せ持つ中田翔など、個性豊かなタレントを数多く抱えたモンスター球団、大阪桐蔭高が準決勝まで勝ち進んだことも盛り上がった原因の1つだろう。高校野球に特別興味を持たない一般の人たちでさえ日々、話題にするような怪物チームが出ないと高校野球といえども盛り上がらない。そういう教訓を突きつけられた思いがする。
ところが、開会式で壇上に立った中山成彬・文部科学大臣は、次のような挨拶を行ない、僕を唖然とさせた。
「勝つために努力することは大事なことであり、尊いことでありますが、勝つために手段を選ばないということは厳に慎まなければなりません。この大会は国民的な行事として発展してまいりましたが、今、現実には全国から選手を集めるような、そういった風潮もあるわけでございますが、やはり高校野球の原点に立ち返れば、それぞれの郷土で生まれ育ったその地区の高校の代表として、郷土の代表として出場することが地元の皆さん方が心を合わせて応援することができるわけであり〜」
中山大臣の前には、18人のベンチ入り選手のうち県外出身者が12人を占める青森山田高や、13人を占める酒田南高の生徒たちが並んで、その辛辣な言葉に耳を傾けていた。彼らの胸の内には、「俺ら、そんな悪いことしてんのか」という思いが渦巻いたことだろう。
中山大臣の言葉は、次のように翻訳(意訳)することができる。
「弱い地域(東北、北陸、山陰など)の学校は大阪の中学生を掻き集めてまでして勝とうとはせず、弱いままでいいではないか」
中山大臣はこの挨拶の中で「私たちはスポーツを通してフェアプレー精神を学ぶわけであります」とも言っているが、高校野球の現場に携わる者にとって勝負に勝つことは人生そのものであり、負けることは評価を下げ、仕事を失うことにもつながる、まさに死活問題なのである。しかし、中山大臣はそういう現場の空気を知らない。知らないからアマチュア野球関係者が、さも霞でも食って生きているかのようなコメントを口から出してしまう。
「郷土の代表として出場することが地元の皆さん方が心を合わせて応援することができるわけであり〜?」──。芸人・魔邪だったら、「はあ〜?」と目を剥いてイチャモンをつけるところである。
「大会2日目の8月7日は日曜日で天気も晴れだ。第3試合の近江高対桐光学園の試合には2万3000人も入ってんのに、第1試合と第4試合に出場した県外出身者ゼロの別府青山高と佐賀商の試合には1万2000人と1万1000人の客しか入ってねえんだよ」カンカンカンカン〜(ゴングの音)
大体、野球のうまい県外出身者を多数入学させるというのは学校の方針で、それに対して朝日新聞や高野連や文部科学大臣がああだこうだと口を挟めるものでもないだろう。少子化の影響で学校存続が多方面で問題になる中、どうして“リクルート効果”が見込める野球留学が問題視されなければいけないのか。それなら東大進学を前提にした鹿児島ラサールなど進学校の受験留学だって同じ土俵で問題視されなければいけないのに、そっちは手付かずで、高校野球ばかりが自称・良識派たちの攻撃を受ける。それってどこか歪んでいないだろうか。
野球留学のプラス効果を紹介すると、彼ら留学生が伝道師となって野球技術を広めていることが見逃せない。とくに重要なのが打撃である。投手は弱い地域でも無名校でも時々、怪物と形容されるような超高校級が出現するが、打者は強豪地区や強豪校からしか輩出されないという現実がある。ところが、唯一そういう現実を変えられるのが強豪地区から編入する留学生たちの存在なのである。
強豪地区、強豪校に生まれ変われば、そこから地元も変わっていく。それを具体的に見せてくれたのが高校ではないが、東北福祉大だと思っている。最初は大阪球児がチームを引っ張り、強さが安定するようになると東北地区の高校球児が多く入るようになった。そういう将来的な地元重視なら僕だって反対しない。
しかし、カンフル剤を打たないと、弱い地区や弱い学校はいつまでたっても強くなれないということを中山大臣にはわかってほしい。日本がアメリカを上回る野球大国になることを願っている僕のような人間の目には、野球留学はもっと盛んになってもいいと思うくらいだ。プロ・アマ規制のハードルが低くなっていると言っても厳然と聳え立っているのに変わりがなく、プロの手を借りて技術向上を目指すという手段には限界がある。それならば、やはり野球留学生の手を借りてうまくなるしか方法はないのである。