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From:バルセロナ(スペイン)「天国での夢想」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2004/12/02 00:00

From:バルセロナ(スペイン)「天国での夢想」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

天気が悪い英国巡りから、日射したっぷりの

バルセロナへ。とたんに僕の身体もゆるゆるに。

選手だってスペインに来たくなるはずだ。

 再び、バルセロナ。

 ロンドン、リバプール、マンチェスター……。イングランドの各都市を巡った旅から1週間ぶりに戻ってくると、地中海岸沿いのこの街は天国のように思える。空港に到着するなり、身体はゆるゆる。光と景色の柔らかさに目はうっとり。緊張はスッとほぐれる。

 イングランド取材に同行したロンドンのコーディネーターさんによれば「イングランド人にとってスペインは憧れの地」だそうで、実際、バルセロナに到着してみれば、ウキウキ気分を隠せぬイングランド人にさっそく遭遇した。坊主頭にTシャツ姿に接近してみれば、案の定、カクカクした聞き取りにくい発音の英語を話していた。思い出すのは、以前イングランドのテレビで流れていたVODAFONEのCMだ。

 ベッカムが燦々とした陽が差し込むスペインの新居を写真に収め、さっそくマンチェスターのネビル兄弟にメールで送信すれば、ちょうど雨に打たれ、ずぶ濡れになっている彼らがそれを受信し、恨めしそうな表情を浮かべる……という笑える内容である。携帯電話だけでなく、スペイン観光協会とか、ブリティッシュ航空なんかのCMとしても行けそうな気がする絵コンテだ。

 イングランドではサッカーにおいても、スペイン人気は高い様子だ。サッカー中継に一番力を入れている「スカイスポーツ」でも、バルサ戦、マドリー戦は毎週欠かさず放映されている。

 だが一方で、スペインでのイングランド人気は今ひとつのようだ。わざわざ天気の悪い場所に、観光で訪れる気にならないのは当然としても、サッカーに対しても、同様な傾向があるのは少しいただけない。こちらで、プレミアの試合を見るのはかなり大変。イングランドでスペインの試合を見るより簡単ではない。

 もちろん、イングランドのスペイン人気は、ベッカム、オーウェンの2大看板の移籍抜きには語れない話だが、イングランドにだってスペイン人はいる。僕がイングランドで最後に見たリバプール対アーセナル戦のシャビ・アロンソのプレーなんかは、スペイン人なら必見に値する素晴らしさだったし、なにより監督を務めるラファ・ベニーテス(元バレンシア監督)のスタイルそのものが秀逸だった。大量の怪我人を抱えながらも、アーセナルを下した最大の要因は、彼の高度な戦術の賜だ。確実にそう断言していい。

 一方、冴えなかったアーセナルにあって一人、まともなプレーを見せていたのもスペイン人だった。バルセロナのカンテラから引き抜かれていった17歳。セスクことフランセスク・ファブレガスである。この選手はいま、イングランドサッカー界に尋常ではないショックを与えている。

 プレミアリーグは現在UEFAランク第2位。首位を行くスペインのポイント差は大きいが、近々、その距離は詰まりそうな予感がする。何人かのスペイン人がそれに貢献している点は皮肉だし、それに気付かぬ(?)スペイン人はずいぶん暢気に見える。魅力のない気候やまずい飯と、サッカーとは別にして考えないと……とは、旅人である僕の意見。

 しかし、サンセバスティアンという欧州で1,2を争う食の都から、リバプールという欧州でも1,2を争う不味い街へ移り住むことになったシャビ・アロンソは、日頃いったい何を食べているんだろう。耐えきれなくて帰国なんてことにならなきゃ良いが……。

 それはさておき、緩いバルセロナに戻り、僕が最初に観戦した試合もまた緩かった。バルサ対世界選抜。カンプノウで行われたエイズ撲滅のチャリティーマッチだ。

 確かに緩い試合ではあった。しかし、我が中田英寿選手は活躍した。世界選抜の先制点を自ら演出。自ら決めた。2点目も中田のシュートの跳ね返りだった。そして中田は後半から、キャプテンに任ぜられた。世界選抜の監督であるヨハン・クライフから……。

 それにしても中田は、どうしてイタリアなんかにいるのだろうか。中村俊輔も柳沢もしかり。彼らには、どう見てもスペインの水の方が合っていると思うのだが。

 では、マヨルカ入りする大久保は? それは難しい質問だが、例えばもし、僕が旅行代理店の社長なら、レッジーナで俊輔を見て、シチリア島で柳沢を見て、そしてマヨルカ島で大久保を見て、そして最後は、お口直しに(失礼)、バルセロナでCLを見るなんていう地中海クルーズの旅を、さっそく企画しているにちがいない。大久保を携帯電話のCMに起用するって手もありかも。こっちは良いよーってな写真を、イングランドの稲本に送るってわけ。

 原稿まで緩くなってきたので、今回はこのあたりで止めておきます。

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