セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER

「トッティ2世」クアリャレッラを守れ! 

text by

酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

PROFILE

photograph byAFLO

posted2007/06/28 00:00

「トッティ2世」クアリャレッラを守れ!<Number Web> photograph by AFLO

 夏の移籍市場では、サンプドリアのイタリア代表FWクアリャレッラが大きな注目を集めている。

 マンチェスター・ユナイテッドのファーガソン監督も惚れ込んだダイナミックなゴールは、セリエAのユベントス、ローマをはじめ、イングランドのリバプール、トットナムのスカウトマンをも虜にした。

 彗星のごとく現れ、人気もうなぎ登りのクアリャレッラの魅力は、何と言ってもファンタジー溢れるプレーにある。2006−07年シーズン序盤、ノベリーノ監督の下ではもっぱら控え選手だったクアリァレッラは、主力FW陣のケガによって終盤戦からレギュラーとして出場。それからは驚異的なまでのパフォーマンスで見るものを沸かせた。キエーボ戦での33メートルのミドルシュート、レッジーナ戦でのダイレクトボレーはセリエAの語り草にもなり、「トッティ2世」の到来にイタリアサッカー協会の幹部も目を細めた。

 近年のセリエAでは、トッティが「最高」のジョカトーレと賞賛されている。パワーあり、小技あり、スピードありのオールマイティなトッティは、セリエAのクラブが目指すサッカーに向いている選手だ。00−01シーズン、ローマをリーグ優勝に導いたカペッロ監督が、トッティを中心としたスピードあふれる攻撃で大きな成果をあげて以来、トッティのプレーは他のセカンドストライカーの教訓にもなった。とはいえ、そう簡単に「トッティになれない」のが現実で、長い間、「トッティ2世」は現れなかった。

 昨シーズン後半、暴れ回るクアリャレッラに「トッティ的」感触を得たのは、皮肉にもセリエAの指揮官たちではなく、イングランド・プレミアリーグの名将たちだった。細かいパスをつなぐだけで、相手の守備を崩せないサンプドリアが、クアリャレッラのどこからでも得点できる能力で勝利を重ね始めた時、その原動力となった23歳のストライカーにイングランドのスカウトたちの注目が集まったのだ。その後、国内でも彼の評価は急上昇。「個の強さ」をそなえたクアリャレッラに「トッティ2世」の肩書きがついたというわけである。

 「ディスタンスのあるミドルシュートとボレーがボクの得点スタイル」と語るクアリャレッラではあるが、自信を持ってそう言えるようになったのは「長年の努力によるもの」と続ける。所属したサンプドリアでもそうだったように、常に第4ストライカーであった彼の命題は、人と違うプレーで監督の信頼を得ることにあり、「目立ちたい」という願望がさらにプレーに磨きをかけた。

 期待のない環境からスターは生まれないとは言われるが、クアリャレッラの場合は逆だ。相手を切り裂くスルーパスも、巧みなボールコントロールや抜群の得点能力も、もともと皆の期待が薄かったからこそ、それを覆すために素晴らしい能力を発揮するに至ったのだと思える。

 指揮官たちから「トッティになれ」と言われ続ける葛藤を抱えながらも、決して「受身」にならないクアリャレッラ。イタリア代表でも6月6日のEURO予選リトアニア戦で2ゴールをあげる活躍を見せた。

 待望の「トッティ2世」を国外へ放出させないためにも、セリエAの各クラブは大金を用意してクアリァレッラ獲りに躍起になっている。

海外サッカーの前後の記事

ページトップ