EURO2004 速報レポートBACK NUMBER
修復されなかったカテナチオ。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images/AFLO
posted2004/06/23 00:00
イタリア対ブルガリアの試合、客席にはスウェーデン人たちの姿があった。彼らはラジオを片手に、他会場のデンマーク対スウェーデンの情報を常にチェックしている。もしその試合が2対2で終われば、たとえイタリアが勝ったとしても、デンマークとスウェーデンのグループリーグ突破が決定するからである(大会規定により、勝ち点が並んだ場合、当該チームの得失点差と総得点で順位を決めるため)。
両試合がロスタイムに突入した時点で、イタリア対ブルガリアは1対1、デンマーク対スウェーデンは2対1であった。まだイタリアにもチャンスはある。イタリアの選手たちは、逆転ゴールを叩き込めばグループリーグ突破を果たせると、ガムシャラにブルガリアのゴールを目指していた。
だが、最初に雄たけびを上げたのはイタリア人ではなく、客席にいた数人のスウェーデン人だった。ロスタイム、スウェーデンは2対2の同点に追いついくことに成功。この瞬間、イタリアのEURO敗退が決定したのである。
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そんなことを知る由もないピッチ上の選手たちは、なおも攻撃を続けた。そして後半49分―――他会場でスウェーデンがゴールを決めた2分後―――唾吐きで出場停止中のトッティの代役として出場していたカッサーノが、ブルガリアゴールに逆転ゴールを決める。
カッサーノは喜びを爆発させて、イタリアのベンチに走り寄った。しかし無情にも、そのときカッサーノに伝えられたのは「イタリアの敗退が決定した」ということだった。カッサーノはその場に座り込み、試合が再開されても、なお彼はそこに座り続けた。もう立ち上がる気力が残っているはずがなかった。
結局、スウェーデンとデンマークがC組を突破。イタリアは総得点の差で敗退が決定してしまった。
イタリア人のサポーターは怒りの声をピッチに浴びせた。
「Brutta Figura, Italia! Merda, Trapatoni!」(愚かなイタリア! トラパットーニのクソッタレ!)
今回イタリアの歯車は初めから狂っていた。トッティが唾吐きで3試合出場停止となり、エースのビエリは"Carne
Morta"(死んだ肉の塊)と馬鹿にされるほど体重オーバーに苦しんでいた。こんなイタリアでは北欧の強豪相手に楽に勝てるはずがない。
イタリアのカテナチオの城門の鍵は、2002年に韓国に壊された。それから2年たった今でも、それは修復されないままである。