Column from Holland & BelgiumBACK NUMBER
ファンデルファールトの受難。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2004/09/28 00:00
ファンデルファールトの周りが、相変わらず騒がしい。
9月上旬のデンハーグ戦で、アヤックスのファンデルファールトは相手サポーターから凄まじいヤジを受けた。ヤジの内容が“短足”とか“出っ歯”とか、見た目を馬鹿にしたものならまだ良かったのだが、スタンドからの声は次第にエスカレートして行き、ついには彼の彼女であるシルビー・メイス(オランダの人気女優)を性的に中傷するまでに至ったのである(確かにメイスが美人かと言われると、イチ東洋人の視点としてからも議論の余地は残る……たとえば)。
ファンデルファールトは、主審に何度もスタンドからのヤジを辞めさせるように懇願したが、主審は全く取り合わない。試合後、アヤックスのクーマン監督は「オランダ・サッカーの恥だ」と激怒した。見かねたオランダ・サッカー協会も、デンハーグに罰金を課すことを検討している。だが、もはやファンデルファールトに、彼女のネタでヤジを飛ばすのは、オランダでは定番になってしまった。
騒動は、これだけではない。ユーロは7月にとっくに終わったというのに、今さらになってオランダ代表の前監督のアドフォカートが、「大会中にファンデルファールトは、体脂肪率が17%もあった」とデブっぷりを暴露してしまったのだ。これには、またまたファンデルファールトは怒った。結局アドフォカートが謝罪して事は収まったが、「セレブになって、毎週パーティーに参加してデブになった」と陰口を叩かれているファンデルファールトにとって、最悪の“科学的根拠”になってしまったのである。
そして、騒動の極めつけは、スウェーデン代表のイブラヒモビッチとの確執だ。
発端は8月のスウェーデン代表対オランダ代表の親善試合だった。この試合でイブラヒモビッチは、アヤックスのチームメイトであるファンデルファールトに思いっきりバックチャージをかまし、途中退場に追いやったのである。これにファンデルファールトは切れた。
「アイツは何を考えているんだ? 試合後に謝りにもこなかった。あとで映像を見たら、明らかに狙っていた。正直に言うと、未だかつて、彼と目を合わせて話したことがない」
不幸中の幸いというか、ユベントスからイブラヒモビッチにオファーがあり、アヤックスはチームの分裂を恐れて、イブラヒモビッチをイタリアに売り渡すことにした。これ以上、モメ事が起こってはたまらない。だが、何の因果か、アヤックスとユベントスは、チャンピオンズリーグのグループリーグで同じ組となってしまった。ファンデルファールトとイブラヒモビッチは早くも“再会”することになる。9月15日のアヤックス対ユベントス戦前に、ファンデルファールトは全てをぶちまけた。
「もともと、私たちの性格は全く合わなかった。彼が何かワガママを言い出しても、ほとんどのチームメイトは口をつぐんでいた。アヤックスは若い選手が多いから、『オマエは何を考えているんだ?』と言える人間がいないんだ。だから、私が必ずそれに反論した。アヤックスは、イブラヒモビッチに付くものと、私に付くものの2つのグループに分かれてしまっていたんだ。それでも、私はキャプテンとして、彼の態度を見過ごすことができなかった」
ファンデルファールト対イブラヒモビッチの第1ラウンドと呼ぶべき、9月15日の一戦は1対0でユベントスが勝利し、先発出場したイブラヒモビッチに軍配が上がった。だが、ファンデルファールトの弟分のスナイデルが、ユベントスのネドベドに両足タックルをかまして負傷退場に追い込み、新たな遺恨も生まれている。ふたりの衝突は、チーム間の対立にも火をつけてしまった。11月23日で再び両者が出会ったとき、何かしらの落とし前をつけることは間違いない。
イギリスの大衆紙に“オランダのベッカム”と報道されたファンデルファールト。まだ21歳だというのに芸能界のスターと付き合い、ピッチ内外の騒動が耐えない男は、10代のときに比較されたクライフとは全く違う方向に歩き始めている。