濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「完全なるスター」誕生ならず。
RENA完敗で群雄割拠の女子格闘界。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2011/06/07 10:30
2011年6月5日、後楽園ホールで行なわれたSB日本レディース王座決定戦。高橋藍(写真右)は、首相撲からRENAをマットに叩きつけるなど、パワーで圧倒し、見事王座に輝いた
「背負ってきた過去」に負けたRENA。
3ラウンド以降のRENAは、虚勢を張ることもできなかった。ヒザ蹴りから投げのコンビネーションで何度となくマットに這い、そこから時間をかけてフラフラと立ち上がるだけ。パンチの連打で棒立ちになる場面もあった。
ジャッジ3者の採点は50-46、50-47、50-47。戦前には想像できなかった大差で、RENAは敗れた。当然、神村との対戦も遠ざかることに。
日本格闘技界再興のためのストーリーは、こうして寸断された。
RENAの敗戦は、そのまま“スター誕生”の難しさを示すものだといえるだろう。試合前日の調印式、RENAの態度はいつもとはまったく違うものだった。椅子の背もたれに体を預けた彼女は、吐き捨てるようにこんな言葉を残した。
「シュートボクシングの女子を盛り上げてきたのは私。タイトルマッチも私がアピールしたから実現するんです。絶対に負けられない。ていうか負けないし」
“これから”のために重要な意味を持つ闘いで、RENAは“これまで”に頼るしかなかったのである。トーナメント連覇の達成感と、人気選手としてのプライド、神村への“リベンジ”を果たしたいという思い。加えて本格的な復帰戦でタイトルマッチを行なうというシチュエーション。
そのすべてが、高橋戦への集中力をRENAから奪っていったのではないか。
途切れたサクセスストーリーは、群像劇へと姿を変える。
だが、ストーリーはここで終わったわけではない。“RENAの相手”だったはずの高橋がタイトルを獲得したことによって、女子立ち技格闘技はより厚みを増した。数年前はアマチュア大会に出場することすら一大決心だった出版社勤務の29歳がベルトを巻く。そんな展開があってもいい。
スター誕生の物語は、群像劇へと姿を変えた。
高橋vs.神村という新たな構図、そしてRENAの復活。複雑で起伏に富んでいるからこそ、このストーリーは“読みがい”がある。