EURO2004 速報レポートBACK NUMBER
汗をかくことを厭わない個性派集団
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byPICS UNITED/AFLO
posted2004/06/28 00:00
元気で陽気なチェコの人々は、ウェーブを巻き起こすことに躍起になっていた。無理もない。前半のチームは、持ち味の厳しいプレスを忘れたような、ひどく及び腰のサッカーに終始していたからだ。退屈しのぎに彼らが起こした波は、4度も観客席を周回した。
後半も彼らはウェーブに夢中になっていたが、波はデンマーク・ファンのところで止まるようになった。チェコは瞬く間に3ゴールを奪い、彼らを死に体にしてしまったからだ。後半のウェーブは、退屈しのぎなどではなくお祭り騒ぎだった。そんなものに付き合うほどデンマーク人もお人好しではない。彼らはむっつりと押し黙ったまま椅子に腰掛け、可哀想にチェコ人からブーイングを浴びていた。
守備的な前半は、仮の姿だったということだ。後半のチェコは別人のようなプレーを展開した。中盤での激しいプレッシングからの鋭く縦を突く攻めで、ペースを一気に呼び込んでしまった。
49分、右CKから競り合ったDFラウルセンをあざ笑うように、コラーが悠々とヘッドを突き刺して先制すると、今度はバロシュが63分、65分と立て続けに技巧的なシュートを決める。まんまとデンマークを欺き、安全圏に逃げ込んでしまった。主力を温存したドイツ戦に続き、彼らはまたしても「死闘」を回避することに成功した。
それにしても、チェコの組織力には唸らされる。このチームは、高いキープ力を誇るロシツキ、脅威の高さを持つコラー、無尽蔵のスタミナの持ち主であるネドべドなど、個性の際立った選手を擁するが、そのだれもが汗をかくことを厭わないのだ。ブリュックナー監督の指導力の高さはピッチに見事に反映されている。
翻って、フランスはどうだったか。前回王者には、ジダンがいて、ビエラがいて、アンリがいた。だが、そのプレーから指揮官の顔を思い浮かべることは難しい。イタリアにしても、そうだった。バロンドール受賞者である大物のネドべドが、嬉々として一兵卒の仕事をする。それこそが、チェコの強さの秘密だろう。
準決勝の相手は、こちらも監督の存在感が強いギリシャである。地味なカードなどと言うことなかれ。ベンチを含めた戦いは、実に興味深いものがある。