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“魔将”ガイエルの超能力?
ヤクルトの大砲が見せる職人芸。
text by
田端到Itaru Tabata
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2009/07/08 13:30
大砲にして補殺数リーグトップという“魔将”の真の姿。
2006年 | 試合 | 刺殺 | 補殺 | 失策 | 獲得アウト | RF |
---|---|---|---|---|---|---|
青木宣親(ヤクルト) | 146 | 306 | 9 | 5 | 315 | 2.16 |
赤星憲広(阪神) | 141 | 277 | 12 | 2 | 289 | 2.05 |
福留孝介(中日) | 129 | 251 | 7 | 1 | 258 | 2.00 |
2007年 | 試合 | 刺殺 | 補殺 | 失策 | 獲得アウト | RF |
---|---|---|---|---|---|---|
ガイエル(ヤクルト) | 142 | 274 | 6 | 6 | 280 | 1.97 |
金城龍彦(横浜) | 137 | 257 | 10 | 4 | 267 | 1.95 |
青木宣親(ヤクルト) | 143 | 265 | 6 | 1 | 271 | 1.90 |
2008年 | 試合 | 刺殺 | 補殺 | 失策 | 獲得アウト | RF |
---|---|---|---|---|---|---|
青木宣親(ヤクルト) | 112 | 229 | 7 | 1 | 236 | 2.11 |
吉村裕基(横浜) | 140 | 251 | 11 | 2 | 262 | 1.87 |
アレックス(広島) | 141 | 249 | 6 | 3 | 255 | 1.81 |
ガイエル(ヤクルト) | 59 | 106 | 5 | 0 | 111 | 1.88 |
まず'07年。レンジファクターのリーグ1位はガイエルである。抜群の守備範囲を誇るチームメイトの青木宣親よりも多くのアウトを獲得しており、ライトでRF1.97はきわめて優秀な数値だ。そう、魔将ガイエルは守備がうまい。
この年はヤクルトのレフトに守備力ワーストのラミレス(現巨人)がいたため、センターの青木がレフト寄りに守り、その分、ライトのガイエルの刺殺が増えたのではないかという推論もある。
'08年のガイエルは右ヒジのケガによる打撃不振で、一軍と二軍を行ったり来たりのシーズンだった。そのため出場試合数が少なく、守備記録も参考程度にしか扱えないが、それでもRFは1.88。結局シーズン終盤に右肘の手術をすることとなる。
途中交代の試合も少なくなかったため、守備イニングで計算する本来のRFはもっと高く、2.0を超えている。この年すでにラミレスは巨人に移籍しており、2007年にささやかれた説は当てはまらない。
そして今季'09年。7月7日終了時点のセ・リーグ外野手・補殺ランキングが表2だ。
1 | ガイエル(ヤクルト) | 7 |
2 | 和田一浩(中日) | 5 |
3 | 青木宣親(ヤクルト) | 4 |
ここでもガイエルは、快調にトップを走っている。3年間でこれだけのデータが揃うのであれば、誰も文句をつけられないだろう。
7月7日に7個目の補殺を決めるイキな男。
その最新の補殺が、昨日7月7日の中日戦、中田賢一の打球を「ライトゴロ」に仕留めたプレーで、今季7個目。打球に対して猛然とダッシュし、クイックな動作から糸をひくような送球で強肩を見せつけた。七夕の夜に7個目の補殺を決めてスリーセブンを並べるなんて、魔将のやることはとことんイキだ。
ちなみに7つの補殺のうち、ライトゴロは早くも3つめ。4月4日の阪神戦、4月23日の巨人戦に続くもので、さらに同じ試合であわやもう1つライトゴロを追加しそうな場面もあった。
最終スコア12対1という中日勝利のワンサイドゲームの中でも、ライトゴロ補殺という高校野球のようなプレーに対し常に準備しているガイエルの真面目な姿勢は、「おもしろ外国人」の範疇におさまるものではない。ガイエルの守備記録が毎年優秀なのは、たまたまでもなければ、魔空間の影響でもなく、必然の結果なのだ。
ライトスタンドの上段へ飛び込むホームランも美しい。さまざまな不思議現象も楽しい。しかし、練習熱心で知られ、決して手を抜かないガイエルの真摯なダンディズムは、そんな守備のちょっとした一動作にさえもにじみ出ている。
空間を歪めると噂されて人気者になったこのカナダ人のハートは、どこまでも真っ直ぐだ。