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桜庭和志 「Number Webも10年。うちの長男も10歳(笑)」 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2009/08/28 19:20

桜庭和志 「Number Webも10年。うちの長男も10歳(笑)」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

まったく新しい格闘スタイルで登場した異能の人・桜庭。

 桜庭が他の総合格闘家と決定的に違ったのは、目新しい動きと面白さだった。もっと砕けていえば、退屈になりがちな寝技の攻防を、素人にも分かりやすいアイディア豊かなムーブで魅了し、最後は一本を極めて勝利するといった図式を完成させた。その桜庭の戦いの蓄積は、いつしかファンたちの眼力を鍛え、肥えさせ、総合格闘技をスタンダードな競技へと高める一役を担うことになった。

――Number誌上でも追及を試みたのですが、桜庭選手の試合の素晴らしさは、独特の動きがあって面白いということにつきるようです。こういった評価についてどう思いますか?

「お客さんに楽しんでもらえるのが一番なんですけど、そこまでは深く考えてはないんです。ただ、野球だってサッカーだって勝つ最善の道は、自分のペースに持ち込むことだと思うんです。普段練習しているパターンや流れにできれば、勝つチャンスは増えるわけですよね。そうするには、動かなくちゃいけないし、膠着していてはチャンスは生まれない。勝つために動く。これがお客さんにうけたんじゃないですかね」

――とくにグレイシー一族との対戦では、それまで総合では絶対に有効だと思われていた柔術に、まったく引くことがなかった。

「それは単純に僕がレスリング出身で、柔術にはない動きをするからでしょ。バックを取られても、柔術とちがってレスリングには切り返すテクニックが普通にありますからね。ただ、いまだに柔術に関してはさっぱり分からない。絞め技とかされると、一体どう返していいのやら(笑)」

伝説のホイス戦を振り返ると、省エネ戦法だった。

――今や伝説と言われるホイスとの90分の死闘を思い浮かべると……。

「(写真を見ながら)うーん、このホイスが胴衣着ている感じが昔の格闘技戦っぽいですよね。でも、今この試合を見るとはっきり言ってまったく動いてないんですよ(笑)。僕は無制限だからダラダラの省エネ戦法。そしたらホイスがトーナメントのこと考えたのか焦って、バテちゃった。自分で無制限がいいなんて言っといてね。まあ、とっとと終わらせるのだけは僕としてもイヤだったんで……」

――ここは腰を据えてやろうと。なるほど。でも、これはもう二度と見ることのできないルールなんでしょうね。
さて、総合格闘技の遍歴を見ていくと、短い歴史ながら寝技有利の時代、あるいは打撃やパウンド有利の時代があったりしたと思うんですが。

「ただそれは、当時活躍した選手がそうだったからに過ぎないと思うんです。総合は総合。ただ、打撃の方は一発があるから勝つには楽ですよ。寝技はネチネチと手間がかかる。その中には伏線があって、寝技には色んな攻防があるわけです。そこが少しでも分かりやすく伝わっていればいいかなって。僕は、特に新しいことをやっている意識はなかったけど、とにかくお客さんが喜んでくれればいいかなって」

【次ページ】 「Numberは専門誌とは違うので話しやすかった」

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