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アレックス とにかく皆を信じてた。 

text by

竹澤哲

竹澤哲Satoshi Takezawa

PROFILE

posted2005/06/23 00:00

 「キリンカップが終わった時には、俺ら、今まで何やってきたんだという気持ちでした。イラン戦以外負けていないんですよ。親善試合で2試合負けただけなのになぜ自信を失ってしまうのか。アブダビでの紅白戦も、お互いどういう動きをするのか、ぜんぜん通じ合っていなかった。そこで、みんなで集まってはっきりさせようということになったんです」

 イラン戦を欠場したこともあり、アウェー2連戦にかけるアレックスの意気込みは並々ならぬものがあった。5月31日の夜に選手たちが自主的に開いたミーティングでは、戦術的な修正について意見を出し、ワールドカップへの熱い気持ちを語り合った。その中でアレックスも自分なりの答えを見つけたという。

 「相手だって100%の気持ちでぶつかってくるんだから、それ以上の気持ちを出さないと。ワールドカップへ行きたい気持ちを、もっとぶつけなければいけない。このミーティングのおかげで、試合前々日の紅白戦をすごくいい感じでやれたんです。みんな自信を持てるようになりましたね。

 そんな時、シンジ(小野)がケガで離脱することになって。悲しいはずなのに、シンジは笑っているんですよ。僕らに気を使ってくれたんだと思います。シンジが一生懸命なのに僕らが落ち込んでどうする、みたいな気持ちになりました。すごく励まされましたね」

 バーレーン戦でアレックスが対峙した29番、モハメド・フバイルは、埼玉では守備的だったものの、今回はホームでもあり攻撃的にくると予想された。試合開始わずか3分、その出鼻をアレックスがくじいた。中央に向かってドリブルする中田英と目を合わせたアレックスは、手を挙げて猛然と29番の背後をつく。そこへ中田から見事なパスが配球された。

 「相手が来る前に僕らが攻めていけば、向こうも怖さを感じるはずだと思っていました。守備をしなければいけないという気持ちにさせたことが大きかったですね」

 攻撃がうまく機能していたからこそ悔やまれるのは、26分にとられたシミュレーションによる反則である。アレックスが果敢にペナルティエリア内に切れ込んだ際、相手DFマルズーキと接触したかのように見えた。

 「足が引っかかったのは事実。ただ倒れるのが遅かった。倒れながら、ああ、まずいな、みたいな。その瞬間、イエロー出されると覚悟しましたね。もう立ち上がりたくなかった」

 ゴールラインの外でしゃがみ込んだアレックスは、レフェリーの掲げたイエローカードをおぼろげな目で上目使いに見つめ、両足のストッキングを直すとゆっくりと立ち上がった。だが、気持ちの切り替えは早かった。

 「次の試合に出られないからこそ、絶対にこの試合をものにしなければと思ったんです。ここで結果を出しておけば、北朝鮮戦が楽になりますから。1点を取った後はリスクを冒さないようにしました。バーレーンはサイドからの攻撃がほとんどだから、加地も僕も背後のスペースを与えないようにした。そうすれば相手はロングボールを放り込むことしかできなくなる。中澤も宮本も田中もそれには強いから、怖さはない。その辺も試合前から話していました」

 勝ち点1を取れば出場が決まるという北朝鮮戦は、スタンドから観戦していた。

 「出ない方がよっぽど、緊張するんですね。日本の方が力は上回っているから、前半は0点でも、後半に絶対チャンスが来ると信じていました。柳沢が決めた時は思わず『やった』ってガッツポーズとりましたね」

 試合終了と共にピッチにおり、引き揚げてきた遠藤や中田浩二らと次々に抱き合う。「アレックスが一番うれしそうだった」と言うと、「そうだったかもしれない」と照れた。

 「ワールドカップでは楽しいサッカーが見せられればいいですね。周りからいろいろ言われても絶対に結果をだすような、そんな強いチームになりたいです」

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