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藪恵壹 「凄さを認めた上での対策だったんです」 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

PROFILE

photograph byTakao Yamada

posted2009/01/16 00:00

藪恵壹 「凄さを認めた上での対策だったんです」<Number Web> photograph by Takao Yamada

 僕と清原さんの対戦というと、やはりデッドボールが印象にありますよね。もちろん故意ではありませんでしたが、だからといって愛でもありません(笑)。

 '97年に清原さんがジャイアンツに移ってきた時、スコアラーから「4、5月はインコースを攻めてくれ。芯に当たっても全部レフトの方にファウルになるから」という指令が来ていたんです。清原さんは'95年に右肩を脱臼されたじゃないですか。あれ以来インコースを捌ききれないというか、腕をたためなくなっていたんだと思います。ビデオでバットの動きを研究していても、インコースにヘッドが出てきていなかったんです。どうしてもそこが弱点となってましたね。

 ヒット8本打たれているんですね。でも長打は1本もなかったんじゃないかな。ピンチでガツンとやられたという記憶はないですね。今だから言えますけど、清原さんの特長は、ピッチャーのベストピッチであるアウトローの直球を、反対方向に本塁打できるということなんです。それができたのは清原さんと落合(博満)さんぐらいしかいなかったんじゃないですかね。原さんとか王さん、野村さんなどの場合、インコースを狙ってやや甘く入ったボールを本塁打にするじゃないですか。清原さんはある意味、メジャー型というか外国人選手に近いタイプのバッターだと思います。

 とにかくその最大の長所を消したかったんです。そのためにもアウトローの対角線にあるインハイを攻めたわけです。そこを意識させることによって外側が疎かになるんです。結局アウトコースを打つにはしっかり踏み込まないと強くバットを振れない、しかも低めの遠い部分になるとなおさらです。ピッチャーの攻め方の基本は、バッターに何を意識させるかです。清原さんの場合、アウトローの真っ直ぐを本塁打させたくなかったからインハイを攻めたわけです。

 何回も対戦していくと、インコースに投げなくても向こうが勝手に意識してくれました。対戦していてもそれがわかるんです。そうなってくるとインコースに投げなくても、カーブかスライダーで2球流してフォークを落とす、みたいな攻めもできました。

 それでも打席ごとに左足の踏み込みは何度もチェックしなければならなかった。しっかり踏み込んでくるのがわかれば、やはりインコースを攻めないといけない。そのあたりはキャッチャーのリードとの兼ね合いですね。何度も言いますが、アウトコースの低めをあれだけ見事に打てる打者はほとんどいませんでした。そういった清原さんの凄さを認めた上での対策だったんです。

 清原さんに対していい成績を残している投手は、僕を含めて皆インコースをつくのがうまい投手だったと思います。皆からインコースを攻められ、ある年のキャンプで清原さんがインコースを克服しようとして、インコースばかり練習していたことがあったでしょう。それが影響してか、アウトロー打ちという最大の武器が消えてしまった気がします。

 デッドボールですか。(対戦歴も)後半になると、打つ時にベース上にグリップが乗ってきたんです。だから下手をするとストライクでも当たるぐらいのところを手が通過していく。ご存知のように清原さんは逃げませんから、どうしても当たってしまいますよね。清原さんだから特に厳しいコースを攻めたわけではないんです。ベース上に投げても、そこに手が出てきて当たりそうになったことが何回もありますから。

 そういえば'94年の入団1年目の時も、オープン戦で対戦して清原さんにぶつけてしまった記憶があります。やはり何か巡り合わせがあったんでしょうかね(笑)。謝罪? ないこともないですよ。一時シーズンオフにゴルフの巨人阪神戦がありましたが、清原さんが優勝した時に「おめでとうございます」と挨拶にもいってますから。

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