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金本知憲 敗者の自覚、逆襲の誓い。
text by
橋本清Kiyoshi Hashimoto
posted2006/11/09 00:00
──'06年のシーズンが終わりました。後半戦の阪神タイガースの追い上げは目を見張るものがありましたが、シーズン全般を振り返ってみてどうでしたか。
「今は146試合すべてが終わって、まさに至福の時やなあ。俺は何をしたのかなあ、今年……。何もしてないかもなあ、という感じがするよ」
──今年2月の沖縄キャンプでお話を伺った時は、昨シーズンのリーグ・チャンピオンとして阪神がまだ経験していない“連覇”というものを目標に掲げていましたが、残念ながら果たせませんでした。
「とくに俺自身にもチームにも慢心とかはなかったと思うけどね。'03年に優勝して、翌'04年のシーズンの時にあったような慢心はなかったと思う。まあ、ぱっとチームを見渡しても、やっぱりケガ人が多かった年だったと思う。今岡、久保田、そして球児も途中ケガで抜けて、うちの勝ちパターンが無くなってしまったというのもあるし。あとは中日が強すぎたというのもあるし(笑)」
──中日はやはり強かったと思いますか。
「俺の中では中日とうち(の戦力)を比べたら、ピッチャーはいっしょくらい、打つのは向こうがちょっと上、で走塁がまったく違う。むこうがぜんぜん上。走塁だけで負けたという試合がいくつかあった気がするよ」
──今年は赤星の足も不調でした。
「うちには赤星しかいない。そもそも盗塁ができるできないではなくて、次の塁を狙うという気持ちの問題だと思う。中日というチームは、例えば一塁にランナーが出るとそのランナーには常に三塁までは行ってやるという気迫を感じる。そしてボールが外野に転がった時点でホームを狙うつもりでランナーはすでに二塁を蹴っている。だから守っていてもすごく嫌やった。スライディングにしてもタイミングはアウトなのにうまいところにすっと逃げてセーフになったりする。うちはまともにいってアウトになってしまう。それで2、3試合は負けているんじゃないかな。そういう意味での選手の走塁意欲は、もうぜんぜん……レベルが違う。単に足が速いとか遅いとかじゃなしに技術が違う。井端、福留、森野、アレックスまで、どの選手も常にスキがあれば行くぞと走ってくる。ベースのまわり方が違う」
──阪神はナゴヤドームではなかなか勝つことができませんでした。あれだけ負けるとナゴヤドームに対する苦手意識みたいなものはなかったですか。
「そうやね。俺は屋根のない天然芝の球場のほうが好きなんやけど、人工芝のせいかどうか知らんけどなあ……疲れ方は確かに違う。今年最初の2連戦でも2連敗したのかな。でも、嫌な気分はせえへんかったよ。個人的にはナゴヤドームだからどうというヘンなイメージは無かった。去年も名古屋決戦といわれる場面で勝ってきた実績があったし」
──岡田監督は“ここ(ナゴヤドーム)に来るとうちの野球がガラッと変わってしまうんや”と言っていましたが。
「そういう空気はあったかもしれんね。ただ、去年は無かった。それをどうこう言っても仕方ないし。たまたまドラゴンズにはナゴヤドームでの勝ち運があったということだと思うけどなあ」
記録達成はホッとした。あと2年は頑張りたい。
──また、今シーズン開幕直後にはご自身の連続フルイニング出場の世界記録更新もありました。
「ずいぶん前の話や。もう、とうに忘れたわ(笑)」
──キャンプの時も意識していないとおっしゃっていましたが、実際はホッとしたんじゃないんですか。
「その時はね。まあ、球団もいろいろグッズを作ったり、記念品を用意したりしていたから、そこまでやってもらって、もし記録の達成ができなかったらほんまに申し訳ないなあと思ってた(笑)。個人的には記念にTシャツやグローブを作って、お世話になった人に配ったよ」
──記録はその後も更新を続けて、シーズン終了時で1042になりました。
「俺はあと2年は頑張りたいと思っている。2年たつと1300。でも、なんで俺はこんな記録始めたんやろ……。一番、辛いんとちゃうかな?― ぜんぜん、金にならんのになあ(笑)。出続けたからといってタイトル料もなにもない。連続出場というのは今はみんなが目指したがらない記録やと思うよ。それよりもホームランをたくさん打つとか、首位打者を目指すとかだから」
──ケガをしないでプレーを続けるということは、プロ野球選手にとって本当に大変なことだと思いますが。
「故障とケガは違うと思う。故障は自分の責任。ケガはアクシデント。デッドボールというのはアクシデントやけど、捻挫や肉離れというのは体調管理をする自分のせいやから。動いている選手同士が出合い頭にぶつかるのはアクシデントやけど、野手がフェンスまでの目測を誤って激突してしまうのは自分の責任やと思う。今はグラウンドの中で起きたことは全部アクシデントだと主張する若いやつが多いけど、俺は違うと思ってる。そんな考え方の俺は、球団にとってはありがたい選手やと思うわ(笑)」
中日はうちの追い上げが、やばいと思っていたはずや。
──今年の数字について聞かせてください。
「ゼンゼン、だったね。ゼンゼン……。打点、打率、本塁打の三つとも昨年に比べて下がったわけだから。とくに打点と本塁打が下がったということには悔いが残る。あとは今年は敬遠されることが多かった。俺の調子がよくなるとすぐ敬遠されて、調子が悪くなってくるとがんがん勝負してきやがった(笑)。そこには歯がゆさがあったね。ここ一番というときにはだいたい敬遠されたから」
(以下、Number665号へ)