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阿部勇樹 失点の痛みを糧に。
text by
佐藤俊Shun Sato
posted2007/08/09 00:01
「失点は、すべて自分のせいです……」
ミックスゾーン、阿部勇樹の眼は微かに潤み、口元は震えていた。ポツポツと話す声は、消え入りそうになるぐらい小さく、力がない。表情を見ると今にも泣き出しそうだ。
サウジアラビア戦、阿部は3失点に絡んでしまった。2点目は左手首を負傷しながらも自ら取り戻したが、3点目は決められた後、大の字になって倒れ、起き上がれなかった。
「1点目は、マークしてたのにセカンドボールに対応が遅れてしまった。2点目は、ポジショニング的にはニアを切るかカバーするか一瞬迷って、センタリングに対してニアを切ったけど……ボールが素晴らしすぎた。それでも最低限シュートを打たせないとかすべきでした。3点目は、個の能力にやられて……。最後の場面は1対1だったけど、止められなかったのは自分の力がないからです」
阿部にとってのアジアカップは、痛恨のファールから始まった。初戦のカタール戦、残り3分というところで不用意なファールを与え、ゴール前でFKを与えた。そこから同点ゴールを決められ、日本は勝ち点3を失い、1-1のドローで試合を終えた。
「あれも自分のミスでした。87分まで相手を抑えたのに、たったひとつの自分のミスで勝ち試合を失ってしまった。これは精神的にすごくキツかったですね」
失点の仕方は、オシムが最も嫌いなパターンだった。ジェフ時代も後半に追い付かれ、勝ち点3を失うことが多かった。そんな時、オシムは「流れを読み、状況に合ったプレーをしろ」と激怒した。そのことを十分に理解していた阿部だけに、この失点は精神的なダメージとして残った。
「UAE戦は、初戦のミスが頭にあって積極的にプレーが出来なかった。別に引きずっていたわけじゃないけど、ファールを恐がってしまって……。でも、ベトナム戦は気持ちを前面に出して、いつも通りやろうと心がけ、積極的にプレーできたんです。それで自分の中では整理できたんですけど……」
だが、失点は止まらず、豪州戦も先手を取られた。それだけにサウジアラビア戦はゼロに押さえて、勝利に貢献したいという気持ちは非常に強かった。練習では中澤佑二と守備の連携について何度も話し合い、練習後には大熊コーチに動き方やポジショニングについて聞き、少しでも守備力を高めようとした。しかし、結果は出なかった。
「自分の力のなさを感じたし、DFはひとつのミスで失点してしまうんで改めて重いポジションだなって思いました。それに……監督の期待に応えられなかったのが悔しいです」
その反省を踏まえて臨んだ韓国戦では思い切ったプレーで失点をゼロに押さえた。
今大会ではいくつかの失敗をした。その記憶は、深い傷跡となって胸に刻み込まれたろう。阿部には、この痛みこそが最大の収穫になったはずだ。