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ハンドボールの一番熱い日。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYukihito Taguchi
posted2008/02/14 16:11
前半を3点差で折り返し、我慢を重ねた末に日本はかすかな勝機をつかみかけた。後半15分過ぎには6点のビハインドを背負ったが、守備で圧力をかけ、宮﨑、古家雅之、下川真良、門山哲也が連続して得点、残り7分の段階で21対23と追い上げを見せる。
それまでは統制の取れた応援で韓国サポーターが場内の空気を制圧気味だったが、この時間帯ばかりは雰囲気が一転、韓国ネットが揺れるたび、日本のサポーターは立ち上がらんばかりに興奮していた。「ひょっとして……」という空気が支配しはじめたが、残り3分を切ってもまだ2点差。正直、逆転は難しい。それでも延長に持ち込めれば……。
しかし、淡い期待は数十秒後に消え去った。
ここからの主役は韓国の18番、白元喆だった。白は日本リーグの大同特殊鋼でプレーする30歳のベテラン。韓国の主将だ。白が憎たらしいほど冷静に2本のシュートを決める。ラスト3分、残念なことに日本は自信を持って攻撃に挑んでいるようには見えなかった。
日本の守備の要である豊田賢治は振り返る。
「尹対策はばっちり出来たと思います。こう来たら、こう動こうというイメージ通りのディフェンスが出来たんじゃないかと。最後は白元喆で来ることは分かってたんですが、マークが甘くなった。白にやられました」
25対28。僅差ではある。しかし番狂わせの予感は最後の数分間にしか訪れなかった。
試合終了後、主将の中川善雄や宮﨑はかなり悔しそうな表情を浮かべていた。ただし、一部には満足感を漂わせる選手もいた。もしかするとチーム内に「勝つ」という思いに濃淡はなかったか。
男子に限らず、女子も五輪への扉を閉ざされたわけではない。女子は3月28日から、男子は5月30日から、世界最終予選に挑む(共に開催地は未定)。しかし最終予選突破の難度は、韓国を倒す比ではない。酒巻監督は、
「(最終予選で対戦する)クロアチア、ロシア、アルジェリアはどれも強豪国なので、倒すのは至難の技です。胸を借りる状態での試合になると思います」
と話した。
最終予選では上位2位までに入れば北京への切符が手に入るが、大柄な欧州勢を倒すのは現在の日本にとって難題である。
だからこそ、地元の大声援の中で韓国に勝つ。その千載一遇のチャンスを逃したことは大きかった。