F1ピットストップBACK NUMBER
合言葉はストップ・ベッテル!!
ハミルトンのミラクル勝利の裏側。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2011/04/20 10:30
グリッド上で、パドック内と同じような作業を猛烈な速さでこなすクルーたち。このままスタートできないのではないか……とも思われた、絶体絶命のピンチだった
ハミルトンの切り札は温存した新品のソフトタイヤ。
マクラーレンのスタッフがここまで懸命に作業を続けていたのには理由があった。それは前日の予選でハミルトンは3番手に終わったものの、予選トップ3の中ではただひとりソフトの新品タイヤを温存していたからである。今回ピレリが上海インターナショナルサーキットに持ち込んだタイヤはソフトとハード。現在のレギュレーションでは予選とレースに使用できるドライタイヤは、ソフト3セット+ハード3セット。予選でもレースでも、ソフトのほうが安定して速いという結果が出ていたが、どちらのタイヤも15~20周目あたりから急激にパフォーマンスダウンする(タレる)ことが金曜日のフリー走行で確認されていた。
そのため、ハミルトンは予選Q2とQ3のアタックをそれぞれ1回ずつにとどめ、ソフトの新品タイヤを1セット、レースに温存する作戦を敷くのである。
一方、ベッテルとバトンは、予選でポールポジションを競い合ったために、Q2で1セットのソフトタイヤを使用した後、Q3でも2セットのソフトを投入。新品のソフトタイヤは残っていなかった。
3番手スタートから逆転を狙う「肉を切らせて骨を断つ」作戦。
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予選後の会見で3番手にとどまったハミルトンは、「前戦マレーシアGPでは予選で熱くなってタイヤを無駄に使用して、レースで苦しい展開となった。だから、今回は少し戦い方を変えてみたらどうだってスタッフにアドバイスされていたんだ」と明かした。つまり、スタートポジションを犠牲にして、レースで逆転を狙うという「肉を切らせて骨を断つ」作戦を採ったのである。
ハミルトンに、そうアドバイスしたのはブリヂストンを離れ、'09年からマクラーレンに移籍してタイヤの使い方を専門に見ていた今井弘だった。レースでハミルトンはこの新品タイヤを活かすため、3回ストップ作戦が敷かれた。
レギュレーションで予選トップ10に入った者がスタート時に装着するタイヤは、Q3でベストタイムをマークした種類と定められている。ここでまずハミルトンは3セットあるソフトタイヤのうち、中古のソフトを1セット消化した。1回目のピットストップは15周目。ここはピットアウト後に渋滞が予想されたため、Q2で使用した中古のソフトタイヤを使用することに決めた。