8月22日、マージー川のほとりに建つエバートンの本拠地。日差しがピッチに照りつけ、芝の匂いが立ち上るような快晴の午後だった。
プレミアリーグ開幕戦で、クリスタルパレスの鎌田大地は中盤で絶えず首を振り、ボールに触れ続けていた。異変は後半に起きた。左CBのシャディ・リアドが相手との接触で足をもつれさせ、座り込む。ベンチから呼ばれたのは冨安健洋だった。ユニホームに袖を通す仕草に、迷いは見えない。後半27分、2点を追うパレスで、冨安は3バックの左に入った。機を見て高い位置まで進み出ると、鎌田との間で短いパスが行き来する時間もあった。同じクラブに所属する日本人選手2人が、プレミアリーグで同時にピッチに立つのは、史上初めてのことだ。
もっとも、劇的な場面として記憶される瞬間はなかった。パレスは敗れ、選手たちも重い足取りでロッカールームへ消えていった。ピッチに2人が並んだという事実だけが、静かに残った。
この試合は、鎌田にとってパレスでの3度目のシーズンの始まりであり、冨安にとっては一度離れたプレミアリーグへの復帰戦だった。2人が歩いてきた道は異なる。それでも行き着いたのは、南ロンドンの同じクラブだった。
パレスはクラブの存続そのものを問われたことも
昨年の5月17日、ウェンブリー・スタジアムでのFA杯決勝。プロ化から120年を経て、パレスは初の主要タイトルを獲得した。選手たちが紙吹雪の中で抱き合っているころ、筆者はパレス側のスタンドに降りてみた。

目に入ったのは、思いのほか多い高齢のサポーターの姿だった。白髪の男性が見知らぬ隣人と肩を組み、声を上げずに泣いていた。「ついに――」。若いファンの興奮とは、明らかに質の違う涙だった。
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