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【西武】「あの切ない打球音が耳に残った」引退の日、栗山巧が記者に差し出した右手と"普通"の試合前練習「背中からは勝負師のオーラがまだ…」《8.30ドキュメント/前編》
その瞬間、音が消えた。
大げさな表現でもなんでもない。
屋根に響いて音が反響しやすい舞台だというのに、球場を埋め尽くした2万7579人の大半がほんの1秒前まで喉を酷使していたというのに、その瞬間だけはベルーナドーム全体が息を止めた。
まるでクラシック音楽のコンサート会場にワープしたかのような、厳かな静寂――。それはライオンズファンから男に贈られた最大限の敬意、愛情表現に違いなかった。誰もが固唾を呑み、無音に近い空間が作り上げられた。だからこそ余計に、あの切ない打球音が耳に残ったのである。
8回裏2死走者なし。栗山巧が左打席に向かって歩き出した。グラウンドの感触を確かめるよう一歩一歩、丁寧に踏みしめる。観客席に視線を移せば、すでに歯を食いしばって涙を流しているオールドファンがいた。両手の指を交差させて祈っている若者がいた。
おなじみの登場曲、クレイジーケンバンドの「あ、やるときゃやらなきゃダメなのよ。」が球場全体に響き渡る。栗山の名を叫ぶ悲鳴にも似た大歓声が、四方八方から飛び交う。それなのに、彼がバットを構えると、あらゆる音が一斉に鳴りやんだ。聞こえてくるのは、所沢に集結した人間たちの悲喜こもごもを知る由もない鈴虫の音色だけだ。
初球。楽天の左投手がやや内寄り低めに153㎞を投げ込んできた。打撃職人は寸分の狂いもなく最短距離でバットをボールにぶつけた。
カンッ。
乾いた衝突音は、どこか男の決断を拒絶しているようにも聞こえた。
やめないでくれ――。
甲高い打球音とそれに付随する大歓声が、そう泣き叫んでいるように感じた。

栗山はなぜファンファーストを貫けるのか?
今年3月中旬、栗山を取材する機会に恵まれた。雑誌「Number」用のインタビュー。すでに2026年限りでの現役引退を発表していた彼に対して、私は以前から抱き続けていた2つの疑問をぶつけた。
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