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「ポーカーフェイスでやるべきことを淡々と」井上拓真はなぜ那須川天心に勝利できたのか「勇気と覚悟をしっかり感じました」《父・真吾トレーナーが語る秘話》

2025/12/10
実力伯仲とみられた、キックからやってきた神童vs.復活を期す元王者のタイトルマッチ。ボクシングに対する価値観闘争とも見られた一戦は、後者が技術と覚悟で相手をねじ伏せた。その内幕を新王者と二人三脚で歩んできた父が披瀝する。(原題:[真吾トレーナーの述懐]井上拓真vs.那須川天心「“常にできる”ボクシングの結実」)

 試合終了のゴングが打ち鳴らされた瞬間、トレーナーの井上真吾は躍るようにリングへの階段を駆け上がった。グローブを突き上げ、観客に勝利をアピールする拓真を拍手で称えると、スッとロープを潜り抜けてリングに入り、フルラウンドを戦い終えた息子と抱擁を交わした。今まで何度も繰り返してきたシーンではあったが、意外にも、真吾が拓真の試合でこれほどの充実感を味わうのは初めてのことだった――。

 キックボクシングの神童としてボクシングに殴り込みをかけた那須川天心と、スーパースターの井上尚弥を兄に持ち、ボクシングの王道を歩んできた拓真。両雄の対決は対照的なバックグラウンドと勝敗予想の難しさがあいまって、ボクシングの枠を超えた高い関心を集めた。

 試合が発表されたのは9月25日、都内のホテルで開かれた記者会見だった。演出の華々しさが目を引く一方、この晴れ舞台に真吾の姿がないことに違和感を覚えたメディアは少なくなかったはずだ。

 体調を崩していたわけではない。記者会見をあえて欠席するはっきりした理由があったのだ。

「まだ自分と拓真の気持ちに温度差がありました。だから会見でいろいろ聞かれても何も答えられない。自分はリップサービスとかできないですから。どうですかと聞かれて『バッチリです』とか答えられないじゃないですか。嘘は言いたくない。だったら行かないほうがいいと思ったんです」

今年10月開業の新アリーナ。ボクシング興行は今回が初 Takuya Sugiyama
今年10月開業の新アリーナ。ボクシング興行は今回が初 Takuya Sugiyama

 昨年10月、拓真は堤聖也に敗れ、WBA王座を失った。有利と目されながら、並々ならぬ闘志で挑んできた堤の気迫に飲み込まれ、試合中は常に後手に回らされての不甲斐ない敗戦だった。

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photograph by Naoki Fukuda

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