ゴール目前、鞍上は“思わず”立ち上がり、歓喜の雄叫びを上げた。7度目のGI挑戦にして、ついに覚醒の日を迎えたマイルCS。魂の突進の舞台裏を、団野大成騎手と池江泰寿調教師が明かす。(原題:[悲願のGI初制覇]ソウルラッシュ「魂と覚悟の咆哮」)
その重圧は、ペルシャ湾まで押し寄せてきた。
中東の島国バーレーンのホテルで、団野大成はベッドに身を横たえていた。第41回マイルチャンピオンシップを3日後に控えた11月14日の午後。初めて訪れた国なのに、観光へ出かける気も起きない。昼寝をしようにも眠れない。目を閉じると、まぶたの裏を1頭の黒鹿毛馬が駆け回った。
「もう全然寝られなくて。レースが近づくにつれてプレッシャーを感じ始めて、1人だとずっと落ち着かないというか……」
24歳は特異な1週間を迎えていた。
翌15日にはサキール競馬場でGIIバーレーンインターナショナルトロフィーが控える。騎乗後はすぐ空港に向かい日本へ。17日に京都競馬場で跨がるソウルラッシュは、前年2着馬として期待を背負っていた。
「GIでここまでの有力馬に乗るのが初めてで、何をしてても、ずっと頭のどこかにありました。離れなかったですね」
すでにGIジョッキーの称号は手にしている。デビュー5年目の昨年に高松宮記念をファストフォースで制覇。だが、12番人気で挑んだ当時とは立場も心境も違った。
胸も息も詰まりそうな室内で、ついに団野は観念した。
「考えないようにしてたんですけど、すごくモヤモヤするので『じゃあ1回考えてみよう』と。頭の中でゲートからゴールまでを何回もイメージトレーニングしました」
逃げるのをやめ、振り返り向き合った。
「それで整理がついて、すごく自信が出てきました」
シーツの上で固めた覚悟は、約8000kmの帰路を経ても崩れなかった。機内では不眠どころか8時間も寝られたという。
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