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「士気だけは下げたくない」大谷翔平はワールドシリーズでいかに魅せたのか…“言葉”の変化と知られざる14回のフルスイング《番記者の視点》
庇い続けていた左肩の痛みは、意識からすっかり消え失せていた。
米国東部時間10月30日午後11時51分。
三塁側ダグアウトから飛び出した大谷翔平は、左肩を気にするそぶりもなく、満面に笑みを浮かべ、無邪気な少年のような表情で走り始めていた。
すべては終わった。
もはや痛みを気にする必要もない。
瞬く間に広がっていく歓喜の輪へ飛び込むことに、ためらいはなかった。一部のドジャースファンを除き、観客席の大半が静まり返るヤンキースタジアムで、ユニホームを脱ぎ捨て、チャンピオンTシャツに着替えた大谷は、誰彼となく手当たり次第に抱き合っていた。日本だけでなく、米国でも常にスポットライトの中心に立ち続けた大谷の2024年は、新たなストーリーを記し、ワールドシリーズ第5戦で完結した。
「最後まで一番長いシーズンを戦えたことを光栄に思いますし、1年目でこういう経験に立ち会えて、すごく光栄だと思います。素晴らしいチームを相手に、自分たちの野球ができたことに誇りを持っています。最後まで勝ち切れた。本当にこのチームを誇りに思っています」
光栄、誇り。公式戦中には、めったに使うことのないフレーズを何度となく繰り返した。これまで数々の記録に到達しても、常に「終わった時に感じるもの」と言い続けてきた大谷が、万感の思いで達成感に浸っていた。
本拠地で迎えた第1戦。ドジャースは最高の形で滑り出した。2-3と1点ビハインドの延長10回、フレディ・フリーマンが右翼席へワールドシリーズ史上初の逆転サヨナラ満塁本塁打をたたき込み、シリーズの主導権を握った。ヒーローとなった35歳は右足首捻挫と肋軟骨の骨折の影響で、直前のナ・リーグ優勝決定戦第6戦を欠場するなど、満足に走れる状態ではなかった。それでも休日返上で懸命に治療を続け、初戦のスタメン表に名前を連ねた。そんなフリーマンの「漢気」に、試合後の大谷も興奮を隠せなかった。
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