リスタートからディフェンスの背後へ走り出した浅野拓磨に、獲物を見つけたジャガーの俊敏さはなかった。その浅野を狙い、自陣からフリーキックが蹴り込まれる。
2022年ワールドカップ・カタール大会、初戦のドイツ戦。1-1で迎えた83分、世界中を驚愕させた決勝点は、なんということもない一本のロングフィードから生まれた。
「板倉滉がボールをセットしたときから、裏を狙っていました。目が合った瞬間、スペースに飛び出そうとしていたんですが」
だが、思い通りにはならなかった。
「早く目を合わせてほしいのに、板倉がなかなか気づいてくれない。そこで少し早く動き出しました。トップスピードで縦に出ると確実にオフサイドになるので、スピードを抑えて斜めに動く形で」
キッカーとの呼吸が合わず、ジャガーの出足は封じられた。だが、ここからストーリーは意外な展開を見せる。
前方に大きく蹴り出した板倉のパスが、浅野の足もとにぴたりと届く。そのトラップの直前、彼はかすかな違和感を抱いた。
「ふんわりしたパスなので、ドイツの守備陣には厳しく寄せる時間がある。ですからぼくは、ボールをキープしようと考えました。外にトラップするか、足もとに収めて味方につなごうと。でも敵が寄せてくる気配がない。ということは……」
最後まで「ふんわりした気分」だった決定打。
かすかな違和感からの読み、それは的を射ていた。ドイツの選手は、多くがオフサイドと決めてかかっていたのだ。
直前まで浅野の背後にいたアントニオ・リュディガーは、オフサイドをアピールしながらジョグしていた。彼は知らない。ボールの逆サイドにいた味方が、浅野の動きに合わせてラインを下げてしまったことを。
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