#468
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「あの一瞬は、神の間でしたね」ロスタイム衝撃の同点弾…川崎フロンターレ・中西哲生の耳から音が消えた《ノンフィクション『神を見た夜』後編》

2024/06/25
Number468号に掲載されたノンフィクション「神を見た夜」の後篇

試合開始早々から、アビスパ福岡の怒濤の攻めをGK浦上のファインセーブ連発で凌いでいた川崎フロンターレは、前半17分、訪れたワンチャンスをモノにして先制する。しかし、わずか7分後、ハイクロスに飛び出し、キャッチを試みた浦上の手をボールはすり抜け、アビスパが同点に追いついた。選手各々、様々な思いが交錯する中、過度の緊張を強いられ、極限状況を見ることになる後半戦を迎えた……<前編はこちらから>。(初出:Number468号 [ノンフィクション]J1参入決定戦 神を見た夜[後篇])

 ジリジリしながらベンチで試合を見守っていたアビスパの山下芳輝に、ようやく声がかかったのは、後半も20分以上が過ぎてからだった。

「後半から行くぞとは言われてたんで、待ってる時はそんなに緊張してなかったと思うんですよ。でも、フィールドに入ったら全然違いましたね。スタンドの雰囲気が違う。選手たちの表情も違う。しかも、状況が状況だったじゃないですか」

 山下がフィールドに入る5分前、アビスパはよもやの2点目を食らっていた。61分、フロンターレ中西が強引にねじ込んで来たタテヘのクロスをヴァルディネイにワンタッチで切り返され、ディフェンダー2人が振り切られるところを、後ろから飛び込んで来たツゥットに押し込まれてしまったのである。後半も、立ち上がりのリズムはアビスパの側にあっただけに、まさしくよもやの失点だった。

妥協も、ミスも許されない。ゾッとした。

 前半の17分に先取点を奪われた時、アビスパの選手にはまだ余裕があった。それまでの時間帯は彼らの方が圧倒的に優勢だったこと、曲がりなりにもJリーグで戦ってきた誇り、JFLに対するちょっとした、しかし確実に存在する優越感――様々なファクターが、たかが1点ぐらいで慌てる必要などないという自信を、アビスパの選手たちに与えていた。案の定、彼らはすぐに同点に追いつくことができた。後半戦のフィールドに向かいながら、自分たちが再びビハインドを追うことになると想像した選手は、間違いなく皆無だったことだろう。

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photograph by Tadashi Hosoda

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