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「勝てば天国、負ければ地獄」アビスパ福岡vs.川崎フロンターレ、Jリーグ初の参入決定戦が見せたもの《ノンフィクション『神を見た夜』前編》
1998年11月19日。それは日本サッカー界がまた、新たなる歴史の一ページを刻んだ日であったと言えよう。Jl参入決定戦、アビスパ福岡vs.川崎フロンターレ。プロリーグが発足して6年目にして初めて行なわれる、しかも、一発勝負で雌雄を決する試合である。勝てば天国、負ければ地獄。熱くならぬはずがないこの戦いの中で、両チームの選手たちは何を見たのか。(初出:Number467号 [ノンフィクション]J1参入決定戦 神を見た夜[前篇])
大げさな表現を許してもらえるのならば、それは、史上最もJリーガーたちが注目した試合だったかもしれない。
プロの世界は、勝てば天国、負ければ地獄だと言われる。確かに、Jリーグが発足した’93年当時は、選手たちにも危機感があった。何しろ、それまで閑古鳥の鳴くスタンドでの試合に慣れたサッカー選手である。彼らは満員の観衆があげる絶叫が嬉しくてならなかったし、勝ち続けることでしか、その環境は守れないものだと思い込んでいた。負ければ、手を抜いたプレーをすれば、かつてと同じうらぶれた世界に逆戻りしてしまう。そんな恐怖がすべての選手たちに染みついていた。まさに勝てば天国、負ければ地獄だった。
しかし、しばらく続いたJリーグの異常な盛り上がりは、選手たちの喉元を大いに潤し、恐怖という名の灼熱を忘却の彼方へと押しやった。勝てば天国なのは変わらなかった。ただ、負けても地獄はなかった。いつしか、チームによっては執念のカケラも感じさせないような試合をしてしまうところも出てくるようになり、当然のごとく、ブームは終焉へと向かった。
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