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「彼女は飛ぶように走っていた」名牝ファインモーションの可能性を、調教師は、ファンはなぜ信じようとしたのか?《秋華賞&エリ女制覇》
2024/05/12
伝説の名牝をも凌駕するかもしれない―。優雅で、飛ぶような異次元の走りは、紛れもなく牝馬の範疇を超えていた。有馬記念の初敗北から連敗を喫してなお、伊藤雄二師の自信は揺らいでいなかった。発売中のNumberPLUS「名馬堂々Ⅱ 競馬ノンフィクション選集」より、特別に転載します。(原題:[名牝賛歌]ファインモーション「飛べよかし!」 初出は2003年10月発売のNumber587号)
葛藤するふたりの自分がいる。
ひとりは昨年の秋から「ファインモーションは、自分が競馬をやり始めてから初めて見る牝馬だ」と言いつづけてきた。
もしかしたら彼女は、テスコガビー以来の、いや、それ以上の、日本で走った最高の牝馬かもしれない、とその自分は思っている。
そして、もうひとりの自分は、ことしの夏にファインモーションが2着に敗れたクイーンステークスのあとに現れた。かれは、「自分の買いかぶり過ぎだったのかも」といくらか自嘲気味に言う。
「どんなに最後の追い込みはさすがだったといっても、負けは負け。去年の秋のファインモーションだったら、楽に突き抜けていたはずだ。あの馬は、ふつうの強いGⅠ牝馬に成り下がってしまったのかもしれない」
ファインモーションに出会ってわかった、テスコガビーの強さ。
秋のGⅠに向けて有力馬の動きが活発になってきたころ、わたしは美浦トレーニングセンターに菅原泰夫調教師を訪ねた。ファインモーションについて書く前に、どうしても菅原さん自身の口からテスコガビーについて話を聞いておきたかったのだ。
菅原さんの騎手時代のハイライトは二冠馬のカブラヤオーとテスコガビーに騎乗した1
975年の春だった。わたしが競馬に関心を持つようになったのはその翌年からで、テスコガビーの走りをリアルタイムで見ていない。それでも、ビデオで見たテスコガビーのレースぶりは衝撃的だった。
「差が開いた、差が開いた。うしろからはなんにも来ない!」
「赤い帽子がただひとつ。ぐんぐんぐんぐんゴールに向かう」
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photograph by Hideharu Suga