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「力を抜いて。脱力する感じで」木浪聖也・中野拓夢の二遊間に息づく“鳥谷イズム”を徹底解剖「今はアイコンタクトだけで伝わる」

2024/03/29
昨季はともにゴールデングラブ賞を受賞している木浪と中野
畏敬しつつも勇気が出ず、懐に飛び込めなかった29歳。入団1年目に授けられた心得を今も実践し続けている27歳。「背番号1」に憧れてきた2人は直接指導の好機を得ると貪欲に教えを吸収し、鉄壁の二遊間を築こうとしている。

木浪がプロ1年目、鳥谷から受けた衝撃。

 まだ外は暗闇だった。

 午前5時過ぎの沖縄・読谷村。阪神入団1年目の木浪聖也は誰にも気付かれぬよう足音を極力抑え、残波岬に位置するチーム宿舎の自室を抜け出した。向かった先はホテルに隣接する大型室内練習場だ。

 日の出は約2時間後。一番乗りを確信しながら目的地に近づくと「カンッ、カンッ」と打球音が聞こえてきた。

〈えっ誰? 若い選手も大変だな〉

 扉を開けた。目を疑った。

 数m先には一心不乱にストレートマシンを打ち込む37歳、鳥谷敬がいた。

「あっ……おはようございます!」

 24歳のルーキー遊撃手はそれ以上、言葉をつなぐことができなかった。

 2019年2月1日。プロ1年目キャンプ初日のかけがえのない思い出だ。

「それはもう驚きました。自分は人より練習する方だと思っていたのに、あの鳥谷さんがこんなに朝早くからやっているのかと……。じゃあ自分はもっとやらないといけないんだなと痛感しました。それが僕のプロ人生の始まりでした」

 木浪はこの日以来もう6年間、沖縄キャンプで早朝5時台の「こっそり始動」を練習日のルーティンにしている。シーズン中も甲子園ナイターゲームデーは午前10時30分頃に球場入りし、全体練習開始の3時間前には体を動かし始める。

 青森県生まれで青森山田高の出身。関西の人気球団になじみが薄い中、内野手だった球児にとって阪神の象徴は背番号1に他ならなかった。そんな一流遊撃手から真っ先にプロの厳しさを教えてもらえた。今思えば、木浪はあまりに幸運だった。

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photograph by Kiichi Matsumoto / Nanae Suzuki
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