自己記録を出した9年前の体を追い求めて、“キング・オブ・アスリート”はもがいていた。しかし、己の体を知ることで考えは変わった。新たなスタイルを作ろうとする36歳の挑戦とは。
日本の十種競技において、右代啓祐は特別な人だ。
2日間で「走る、跳ぶ、投げる」というすべての要素が試されるこの競技で、日本選手権優勝8回、アジア大会は2連覇を達成。オリンピックではロンドン、リオデジャネイロ(開閉会式の旗手も務めた)の2大会に出場した。
そしてその存在感は、競技場で一層際立つ。右代は自分を叱咤するだけでなく、他の競技者にも「ここだぞ!」といった激励の声をかける。ライバル関係を超越し、同胞のパフォーマンスを引き出そうとする「指揮者」のような存在なのだ。その右代がいま、肉体改造に取り組んでいる。
「2014年の日本選手権で、日本新記録となる8308点を出しました。それ以来、当時の27歳の体が自分にとってのベスト、“理想像”になり、頭の中のメモリーが'14年の状態を求めるようになっていました」
右代の肉体は、彫刻のように美しい。スタジアムで見ると、張りのある上半身に加え、膝下の長さ、細さが目を引く。当時の体脂肪率は3%。それを維持するために自身に課したのは節制だった。
「みなさんが食べるのと同じくらい、毎食を700キロカロリーほどに抑えて、'14年の体を維持しようとしてたんです。でも、僕は基礎代謝が2800くらいあって、それにプラスしてトレーニングをしますから、1日に3500から4000くらいは消費します。そうすると、自然の摂理で体重は減っていくばかりです」
20代のうちはこれでも良かったのかもしれない。しかし、30代に突入してから痩せた体では出力を大きく出せなくなってきた。
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photograph by Yuki Suenaga