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【柔道】「結構な血の量だったので…」阿部一二三だけがパリで味わった「最高の嬉しさと、最高の悔しさ」<兄妹で再び目指す“同日金メダル”>
阿部一二三のパリオリンピックはウォーミングアップ会場で唐突に幕を開けた。
初戦に向けた準備をしながら、女子52kg級に出場している妹・詩の試合をモニターで眺めていた。1回戦を危なげなく勝ち上がり、2回戦も幸先よく技ありを先行している。「悪くなさそうだ。リードもしているし大丈夫」と思ったその矢先だった。詩は刹那の谷落としを浴びて、畳の上にあおむけに倒されていた。
阿部は目を疑った。ともに東京五輪以降は負けなしで突き進んできた妹がまさかの一本負け。モニターには、崩れ落ちて延々と慟哭する詩の姿が映し出されていた。
「妹が悔しがっている、泣いている姿を見て、僕も感情をどうしたらいいのかなと思いました」
下手をしたら自分まで泣いてしまいそうだったが、すぐに腹を決めた。
「自分が兄として絶対に妹の分までやりきる。泣くのは今じゃない」
モニターから目を離し、畳に向かった。ざわつくアップ場で動揺を表情に出すことなく自分の準備に切り替えた。
一心同体ではあるが、一蓮托生ではない。
阿部兄妹、とひとくくりにされることが多いが、阿部はそのあたりの意識の変化を大会前に語っていた。
「いつも一緒のイメージが強いと思うけど、最近はどっちも別々だなと考えている。オリンピックチャンピオンになって、もう一緒じゃダメというのかな。今回はお互いがやるべきことをやって、その結果が同日優勝なら最高だと思うようになりました」
阿部が2つ上の兄とともに6歳から柔道を始め、その練習についていった詩も同じ道を選んだ。消防士の父が考案した独自のトレーニングなどを重ね、いつしか二人とも世界的な柔道家となった。まるで一心同体のように歩んできたが、一蓮托生ではない。阿部はそう考えていた。
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