勝てるかもしれない――。後半途中までは間違いなく可能性はあった。相手が絶対の自信を誇るスクラムで互角の勝負ができた裏には、大ベテランフッカーの総合力と、チームが年月をかけて培った哲学が存在した。
結果的に点差はついた。しかし、後半15分過ぎまでは互角の勝負。それは堀江翔太を中心とした、スクラムという現代ラグビーでは極めて重要なプラットフォームの安定があったからに他ならない。
イングランド相手に、スクラムの不安は拭えなかった。昨年11月のトゥイッケナム。前回の対戦ではスクラムが粉砕された。日本がプライドを持っていたスクラムが徹底的に破壊されたことで、52点という大量失点につながった。
3番の具智元曰く「あのときは組み負けて、押し込まれてしまいました」。さて、今回はどう対処したのか。堀江は、長谷川慎スクラムコーチの哲学をこう解説する。
「1番、2番、3番の前3人は基本的に押さない。バックファイブ、4番から8番までの5人の押しを相手に伝えてるだけです。慎さんの理論は、全員の足の向きまでディテールにこだわるというものです」
長谷川コーチの選手たちへのメッセージは、「殴られる前に殴れ」。いささか言葉は乱暴だが、細部にこだわり、仕掛ける意識を持つということだ。この日は具を前に出すため、ロック、フランカーが押しを徹底的に意識し、1番の稲垣啓太と2番の堀江が寄り添って後ろからの押しを相手に伝えなければならない。
相手の「クセ」を予習して対策を組んだスクラムが功を奏した。
しかも開始早々(まだ30秒しか経っていなかった)、FBセミシ・マシレワがインゴールでノックオンを犯し、いきなり自陣ゴール前でファーストスクラムが組まれる。臓腑が重くなるような瞬間。日本のスクラムはびくともしなかった。堀江は言う。
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