イングランド戦の敗戦から11日後――。7月に惜敗した相手との落とせない一戦でチームを勢いづけたのは、土壇場で選出され、先発にも急遽繰り上がったベテランだった。
歳月にも錆びぬ鋼鉄だ。フランス南西部のトゥールーズ、夜間照明のスタジアムを桜の15番の疾走がいっそう照らした。
レメキロマノラヴァ。34歳。
トンガの血を引き、ニュージーランドに生まれ、オーストラリアでチャンスをつかんで、日本で名をなし、常に世界の舞台で暴れる男。対サモアの夜、球を運んだ合計距離は151mまで伸びた。堅実なキック処理や再確保も可能な高いパントのスキルにも実力を示し、英雄的な攻守はまさに「POM=プレイヤー・オブ・ザ・マッチ」にふさわしかった。
2021年10月23日のオーストラリア戦以来の先発だった。今回のフランス行きを「滑り込み」と記しては失礼だろうか。しかしウォームアップ5連戦にも出場はなかったのだから、まん真ん中の本命というわけではなかった。6月中旬の本格始動時の立場は「代表」ならぬ「代表候補」。どうやら当初はジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)の構想の外にあった。
サモア戦後の英語によるフラッシュインタビューで本人は心境を明かした。
「信じられない。(代表入りは)もう消えたかと思っていたから。でもシーズンが終わって呼ばれて、まあ半分のチャンスでもノーチャンスよりは上だから、波に乗ることにして、こうしてここにいる」
ニースにおけるイングランド戦の開始7分。背番号15のセミシ・マシレワの負傷により芝の上へ現れた。ここに半分のチャンスは大躍進へ結ばれる。
どこかふてぶてしいほどの貫禄、されど若々しいランまたラン。65mのゲインをさっそく稼いだ。レメキここにありだ。
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photograph by Kiichi Matsumoto