14戦全勝と快進撃を続ける、MMA(総合格闘技)期待の日本人ファイターがいる。昨年5月以来、世界最大規模のMMAプロモーション『UFC』に参戦中の平良達郎だ。
「UFCはMMAのメジャーリーグ。各階級の一番を決める舞台です」
オクタゴンと呼ばれるUFC独自の八角形のケージ(金網)に囲まれた舞台で闘っても4連勝中。この連勝記録は堀口恭司に並び、日本人選手としては8年ぶりの快挙だ。
「UFCに上がるようになって海外の選手とも互角に渡りあえるということが自信となり、自分を信用できるようになりました」
平良の長所はグラウンドで極め切る、ずば抜けたスキルを持ち合わせているところだ。14勝のうち7勝を極め技による一本で、3勝をパウンド(寝ている状態の相手に放つパンチ全般)によるTKOで収めている。
「試合中はどうやったらフィニッシュにつながるか、どんな攻撃の選択をしたら相手がイヤがったり、スタミナをロスするかを考えながら闘っていますね」
戦略は何歩先までも読むほど緻密ながら、自分の記録には無頓着で、ときには「何連勝だっけ?」と迷うこともしばしば。過去より、未来を重視するタイプなのだ。
「良くも悪くも対戦相手が決まれば、ほかのことはどうでもよくなる。次の試合に勝つことだけを考えます」
沖縄では切手セットが発売され、瞬時に完売。
生まれも育ちも沖縄で、現在も那覇にあるTheパラエストラ沖縄を練習の拠点とする。ソーキそばをこよなく愛し、海外から帰国すれば馴染みの店で大好物をすする。
「もうひとつ沖縄と聞かれて真っ先に思い浮かぶのは三味線(三線)。僕は全く弾けないけど、おじいちゃんが上手だったので、いつかはおじいちゃんのそれを譲り受けて練習しようかと思っています」
地元では平良の知名度は右肩上がりである。今年3月に沖縄限定で、平良の切手が5種類1セットで発売され、瞬時に売り切れた。
「発売が決定したときはタイで練習中で、『あっ、自分が切手になるんだ』程度の感覚しかなかった。僕は1枚も持っていないけど、周囲から『切手になるなんて本当にすごい』という評価をもらって驚いています」
街角で声をかけられることも多くなってきた。「ただ、僕はめちゃくちゃコミュニケーション能力が高い方ではないので、知らない人からいきなり話しかけられると、『た、平良です』とかしこまった返事をしてしまうこともあります(苦笑)」
北米拠点のUFCと契約して以来、試合は海外ばかり。ゆえに平良は海外で活躍し、評価の高い日本人アスリートに尊敬の眼差しを送る。
「僕は結構時差ボケで眠れなかったりするんですけど、そういうときになるとお父さんが『大谷翔平だったら……』と言ってくれる。大谷選手は長時間睡眠をとるみたいですね」
7月25日、井上尚弥がスティーブン・フルトンをTKOで撃破し、WBC・WBO世界スーパーバンタム級王座を獲得。4階級制覇を成し遂げたときは観客席にいた。平良を知る井上のマネージャーがチケットを用意してくれたという。初めてのボクシングのライブ観戦だった。
「井上さんは雲の上の存在で、『自分もこうなりたい』と思わせるものを持っている。だって対戦相手をまるでサンドバッグみたいに叩いていたじゃないですか。相手が入ってきたとき、あるいは自分が当てて戻るときのバックステップにはMMAとは違う速さを感じました。会場を出る頃には自分もボクシングが強くなったような気もしました。翌日練習したらいつも通りでしたけど(笑)」
タイトルマッチへの足がかりをつかみ、王座へ。
来る10月14日(現地時間)には米国ラスベガスでダビッド・ドボジャーク(チェコ)と対戦する。以前はチェスのプレーヤーだったという異色の経歴の持ち主だ。
「試合が決定した時点でダビッドはフライ級のランカーだった。いまはランキングから抜けてしまったけど、とにかく試合をしたかったのでありがたい。できれば、今回はストライキング(打撃)で仕留めたい」
ダビッドを撃破すれば、ランキング入りは確実視されている。
「そうなれば、あと数戦でタイトルマッチまで行ける。『もう次の挑戦者は平良でいいんじゃないの?』というムードを作りたい。2024年にはUFCフライ級王座を獲ります。自分ならできると信じています」
沖縄発世界へ。23歳のウチナーンチュはあの堀口でもなし得なかった日本人選手として初のUFC王者になれるのか。
沖縄ではいまも絶対的な知名度を持つ具志堅用高を越えてゆけ。
平良達郎Tatsuro Taira
2000年1月27日、沖縄県生まれ。15歳でTheパラエストラ沖縄入門。'18年に修斗プロデビュー。'21年に世界フライ級王者。'22年からUFC参戦後4連勝。MMA14戦14勝。170cm。