#848
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「運命に私は感謝するわ」浅田真央を支えたコリオグラファーの愛【ソチ五輪直後、タラソワらの証言】

フィギュアには、心に刻まれるプログラムがある。ソチで浅田が舞った2曲には、誰よりも近くで彼女を見守り続けた二人の思いが込められていた―。(初出:Number848号「真央を支えたコリオグラファーたち。」)

証言①:ローリー・二コル「マオの演技は心に残るものになるでしょう」

 浅田真央が普段は考えられないようなミスをしたSPの夜、プログラムを振付けたローリー・ニコルは、静かに会場で見守っていた。

 もともと2006年に彼女が振付けたこのショパンの「ノクターン」は、名プログラムと評判が高かった。この音楽を大人の女性に成長した彼女にもう一度表現してほしいと願って、ニコルが新たに振付けたものだった。だがソチの大舞台で、それをノーミスで見せることはかなわなかった。

「見ていて心が痛みました。真央のように才能があり、これまで努力を重ねてきた善良な人間に、あんなことが起きるなんて。フィギュアスケートの厳しさ、スポーツに起こり得る残酷さを見た思いです」

 カナダ生まれ、アメリカ育ちのニコルは、現在トロントに住んでいる。2人の息子の母であり、子供ができたのをきっかけに出張の多いコーチをやめて、プロの振付師に転向した。彼女が浅田の振付けを手掛けるようになったのは、’05年から。最初の作品はGPファイナルで優勝した「くるみ割り人形」だった。

「彼女と一緒に過ごしてきた時間は、素晴らしいものでした。まだ幼い少女だった彼女が、大人の女性、大人のスケーターに育っていく過程を共有させてもらうのは、すごく光栄なことでした。彼女がこれまで積み重ねてきたもの、フィギュアスケート界に残してきたものを、私はとても誇りに思っています」

 フリーの翌日の早朝にロシアを発つというニコルに話を聞いたのはSPの次の日の昼、まだフリーの前だった。だが点数を見る限り、浅田が挽回して金メダルを手にする可能性は絶望的だということはわかっていた。

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